※智視点に戻ります※
翌朝。
本日も、スッキリ爽快な朝を迎えることは出来なかった。
三笠先輩とは別々の布団で眠ったが、何せ布団が、三笠先輩の匂いが染みついる布団なのだ。抱き枕にされていなくとも、抱かれているような気分になってしまう。
しかも、三笠先輩が冗談まで言うものだから。
『智、好きだよ』
もう、あれが頭から離れない。何度も頭の中でリピートされて、全く眠れなかった。
しかし、今日は大学もバイトも休み。昼寝を存分にしよう。と、その前に——。
「三笠先輩。何してるんですか?」
「何って、片付け」
「か、片付け!?」
「ここにある物、フリマアプリで売ろうかなって」
僕は、三笠先輩の額に手を置いた。
「熱は無さそうですけど、顔が赤いですね。これから熱が出るんですかね」
「だ、大丈夫だから」
やや動揺している三笠先輩。いつもは余裕たっぷりなのに……やはり体調が芳しくないのだろうか。
「三笠先輩の布団、今干してるので僕ので良いですか?」
三笠先輩の返事も聞かずに、僕は先程畳んだばかりの布団をもう一度敷き直した。
ちなみに、僕の布団は雨漏り被害でビシャビシャになったので、大家さんが新しいのを購入してくれた。僕は干せば使えると言ったのだが、天井を滴った水なんて気持ち悪いだろうとのこと。
「ほら、今日はしっかり休んで下さい。人間が住める程度には片付いてるので、今日は僕も静かにしてますから」
ゴミは全て捨てたので、後は荷物の整理だけ。収納スペースがないので、それを買わないことにはどうしようもない。
「僕、今から買い出しに行って来ますので、その間だけでも」
「本当に俺、体調なんて悪くないよ。片付けだって、智に少しでも嫌われないように……」
三笠先輩は、慌てて口元を手で覆った。
「僕から嫌われないように……?」
言っている意味が分からない。
もしや昨日一緒に寝なかったから?
あれは、僕の心臓がもたなかったから。揶揄われているだけなのに、あのまま一緒に寝ていたら本気で三笠先輩のことを好きになってしまいそうだったから。だから、距離を置いただけだ。
しかも、日々の片付けは契約の最大条件だ。三笠先輩がしてしまったら、僕は行き場を無くす。
そこで僕はハッと気が付いた。
これは三笠先輩が僕に嫌われるのではなく、僕が三笠先輩に嫌われないようにする為に行動を改めろ、と遠回しに言っているのでは?
「あの、三笠先輩」
「何?」
僕は正座して、深く深く頭を下げた。
「僕、出来るだけ三笠先輩の言うこと聞きますから。だから、残り三週間、見捨てないで下さい!」
「え……?」
「ここを追い出されたら、行くところ壊滅的にないんですよ。最悪、野宿も考えましたが、野宿よりはゴミやし……いえ、少し清掃が行き届いていないこの部屋の方が快適で。それに、三笠先輩のご飯が食べられなくなるのは何だか惜しくて。今朝のスクランブルエッグも神がかった美味しさでした! だから、片付けを……唯一の僕の役目を取らないで下さい!」
早口でお願いすれば、琥太郎はフッと笑って言った。
「智、どうしちゃったの?」
「僕が昨日一緒に寝なかったから、だから、抱き枕の分際で文句言うなって怒ってるんですよね」
「何か勘違いしてない?」
「いえ、住む場所と美味しいご飯を提供してもらって、且つ、こんなに尊い顔を毎日拝ませてもらっているのに、僕は片付けだけなんて全くフェアじゃないですよね。添い寝が追加条件なら、全力で添い寝させてもらいます!」
「はは、全力で添い寝って何?」
三笠先輩が笑った。何だか朝から元気がなかったような気がしていたので、三笠先輩の笑顔を見ると安心する。
三笠先輩は笑い終えると、一息ついて言った。
「添い寝はもう良いよ。自制きかなくなったら困るし」
「自制……?」
「こっちの話。代わりにさ、買い出し一緒に行って良い?」
「え……一緒にですか?」
「嫌だった?」
寂しそうにする三笠先輩。今日はどうしたのだろうか。いつになく余裕が無さそうだ。
「嫌という訳では、決してないのですが……」
「何?」
「いやぁ」
僕なんかが、イケメンの三笠先輩と隣を歩いて良いのだろうか。周りの視線も気になるし……。
でもここで断ったら、せっかく直した三笠先輩の機嫌を再度損なうことになるのでは?
「あ、そっか」
「智?」
芸能人をサポートするマネージャーの立ち位置なら、僕がイケメンでなくとも問題ないのでは? マネージャーの仕事を実際に見たことがないので分からないが、三笠先輩の少し後ろで荷物持ちに徹すれば良い。
マネージャーに見えなくとも、パシリ要因でいけるはず。
「先輩、一緒に行きましょう」
「やった」
こうして、僕らの本日のスケジュールが決定した。
翌朝。
本日も、スッキリ爽快な朝を迎えることは出来なかった。
三笠先輩とは別々の布団で眠ったが、何せ布団が、三笠先輩の匂いが染みついる布団なのだ。抱き枕にされていなくとも、抱かれているような気分になってしまう。
しかも、三笠先輩が冗談まで言うものだから。
『智、好きだよ』
もう、あれが頭から離れない。何度も頭の中でリピートされて、全く眠れなかった。
しかし、今日は大学もバイトも休み。昼寝を存分にしよう。と、その前に——。
「三笠先輩。何してるんですか?」
「何って、片付け」
「か、片付け!?」
「ここにある物、フリマアプリで売ろうかなって」
僕は、三笠先輩の額に手を置いた。
「熱は無さそうですけど、顔が赤いですね。これから熱が出るんですかね」
「だ、大丈夫だから」
やや動揺している三笠先輩。いつもは余裕たっぷりなのに……やはり体調が芳しくないのだろうか。
「三笠先輩の布団、今干してるので僕ので良いですか?」
三笠先輩の返事も聞かずに、僕は先程畳んだばかりの布団をもう一度敷き直した。
ちなみに、僕の布団は雨漏り被害でビシャビシャになったので、大家さんが新しいのを購入してくれた。僕は干せば使えると言ったのだが、天井を滴った水なんて気持ち悪いだろうとのこと。
「ほら、今日はしっかり休んで下さい。人間が住める程度には片付いてるので、今日は僕も静かにしてますから」
ゴミは全て捨てたので、後は荷物の整理だけ。収納スペースがないので、それを買わないことにはどうしようもない。
「僕、今から買い出しに行って来ますので、その間だけでも」
「本当に俺、体調なんて悪くないよ。片付けだって、智に少しでも嫌われないように……」
三笠先輩は、慌てて口元を手で覆った。
「僕から嫌われないように……?」
言っている意味が分からない。
もしや昨日一緒に寝なかったから?
あれは、僕の心臓がもたなかったから。揶揄われているだけなのに、あのまま一緒に寝ていたら本気で三笠先輩のことを好きになってしまいそうだったから。だから、距離を置いただけだ。
しかも、日々の片付けは契約の最大条件だ。三笠先輩がしてしまったら、僕は行き場を無くす。
そこで僕はハッと気が付いた。
これは三笠先輩が僕に嫌われるのではなく、僕が三笠先輩に嫌われないようにする為に行動を改めろ、と遠回しに言っているのでは?
「あの、三笠先輩」
「何?」
僕は正座して、深く深く頭を下げた。
「僕、出来るだけ三笠先輩の言うこと聞きますから。だから、残り三週間、見捨てないで下さい!」
「え……?」
「ここを追い出されたら、行くところ壊滅的にないんですよ。最悪、野宿も考えましたが、野宿よりはゴミやし……いえ、少し清掃が行き届いていないこの部屋の方が快適で。それに、三笠先輩のご飯が食べられなくなるのは何だか惜しくて。今朝のスクランブルエッグも神がかった美味しさでした! だから、片付けを……唯一の僕の役目を取らないで下さい!」
早口でお願いすれば、琥太郎はフッと笑って言った。
「智、どうしちゃったの?」
「僕が昨日一緒に寝なかったから、だから、抱き枕の分際で文句言うなって怒ってるんですよね」
「何か勘違いしてない?」
「いえ、住む場所と美味しいご飯を提供してもらって、且つ、こんなに尊い顔を毎日拝ませてもらっているのに、僕は片付けだけなんて全くフェアじゃないですよね。添い寝が追加条件なら、全力で添い寝させてもらいます!」
「はは、全力で添い寝って何?」
三笠先輩が笑った。何だか朝から元気がなかったような気がしていたので、三笠先輩の笑顔を見ると安心する。
三笠先輩は笑い終えると、一息ついて言った。
「添い寝はもう良いよ。自制きかなくなったら困るし」
「自制……?」
「こっちの話。代わりにさ、買い出し一緒に行って良い?」
「え……一緒にですか?」
「嫌だった?」
寂しそうにする三笠先輩。今日はどうしたのだろうか。いつになく余裕が無さそうだ。
「嫌という訳では、決してないのですが……」
「何?」
「いやぁ」
僕なんかが、イケメンの三笠先輩と隣を歩いて良いのだろうか。周りの視線も気になるし……。
でもここで断ったら、せっかく直した三笠先輩の機嫌を再度損なうことになるのでは?
「あ、そっか」
「智?」
芸能人をサポートするマネージャーの立ち位置なら、僕がイケメンでなくとも問題ないのでは? マネージャーの仕事を実際に見たことがないので分からないが、三笠先輩の少し後ろで荷物持ちに徹すれば良い。
マネージャーに見えなくとも、パシリ要因でいけるはず。
「先輩、一緒に行きましょう」
「やった」
こうして、僕らの本日のスケジュールが決定した。



