※智視点に戻ります※
琥太郎の部屋にて。
「えっと……僕、帰りましょうか」
目の前には、琥太郎とその母が小さなちゃぶ台を挟んで座っている。
さすが琥太郎の母。美しすぎる。しかも、若い。琥太郎の年齢を考えれば四十代くらいだろうか。二十代後半といっても通じそうだ。
琥太郎は、そんな母親と目を合わせようともせず、至極不機嫌そうにしている。対して母親の方は、真剣な面持ちで琥太郎を見据えている。
この状況下に僕が混じっているのも不可思議で、早く自分の部屋に帰りたい衝動に駆られている。
「琥太郎。あなた、私の後を継ぐ気あるの?」
「……」
「はぁ……全くあなたは」
琥太郎の母親は溜め息を吐きながら、鞄から何やら分厚い写真台紙を取り出した。
「だろうなと思って、今回のお見合い話を持ってきたのよ」
「え!? お見合い!?」
驚けば、琥太郎の母親にキッと睨まれた。僕はその場で小さくなった。
それにしても、お見合いなんてさすが金持ち。政略結婚みたいな、そんな感じなのだろう。
(って、感心してる場合じゃなかった)
お見合いするということは、琥太郎はその娘とお付き合いないし結婚するということ。
しかし、後継問題を考えたら、普通に考えて男の僕より女の誰かの方が良いに決まってる。僕は潔く諦めるべきだろう。
そう思っていたら、琥太郎が不機嫌そうに言った。
「俺、恋人いるって言ったじゃん」
「どうせ何処の馬の骨とも分からない子でしょう? メリットあるの?」
「大有りだよ。俺の心の安寧」
「ハンッ。馬鹿馬鹿しい」
鼻で笑う琥太郎の母に、やや苛立ちを覚える。
ここでドラマや漫画の世界なら、『お言葉を返すようですが……』なんて反論でもするのだろうが、何せ僕は気が弱い。反論なんて夢のまた夢だ。
「この立花旅館の御子息と結婚すれば、うちの会社も安泰なのよ。私の後任も彼になら任せられるわ」
ん? 御子息? 彼?
そのワードに引っかかりを覚える。
琥太郎も何かに引っかかった模様。お見合い写真を奪い取って開いた。刹那、琥太郎の額に青筋が浮かんだ。
「却下」
「何でよ。良いお相手でしょう?」
「見た目が、まず無理」
「どこが。イケメンじゃない」
二人が言い合いする中、僕もそーッと琥太郎の手元の写真を覗いた。
「え? 男の人?」
思わず口に出してしまい、口を手で押さえる。
お見合いなので、てっきり女性だとばかり思っていた。
「智。母さんは俺がゲイだって知ってるから」
「そ、そうなんですね」
だからと言って、男性をお見合い相手に選ぶとは、理解のある母親だ。子供云々の問題は気にしていないのだろうかという疑問はあるものの、尊敬に値するかもしれない。
「でも、この人どこかで見たことあるような……」
「そりゃ、同じ大学なんだから、すれ違ったりとかしてるんじゃないかしら?」
琥太郎母に言われ、思い出した。
「え? もしかして、ボランティアサークルの?」
「チッ」
琥太郎が舌打ちした。
暫し黙ることにした。
「もしかして、コイツもゲイなの?」
「探すの苦労するのよ。大々的に、皆がカミングアウトしてる訳じゃないから」
「余計なお世話だよ。俺には心に決めた相手がいるから。おいで」
琥太郎に手招きされ、辺りを見渡す。
もしかしなくとも僕を呼んでいる。
琥太郎母は、意外な顔をして僕を見る。
「おいで」
もう一度優しく呼ばれ、僕は観念して琥太郎の横に座った。
「あ、あの……」
「俺の恋人の桐原 智くん。俺は智以外眼中にないから」
「よ、宜しくお願いします」
琥太郎に紹介され、顔が赤くなる。
「あら、今までとタイプが違うのね」
「まぁね」
「でも、どうせすぐ別れるんでしょ」
本人目の前に失礼な母親だ。
ややムッとするが、何度も言う。そこまでの度胸を持ち合わせていない。
「とにかく、来週の土曜日に会うことになってるから。宜しく頼むわね」
「俺は行かないから」
終始不機嫌な琥太郎は、お見合い写真をちゃぶ台の上に放り投げた。
琥太郎の母親は呆れたように立ち上がり、僕を見て優しく言った。
「あなたも、琥太郎のことが好きなら分かるわよね?」
そのまま玄関に向かったので、僕も立ちあがろうとすれば、琥太郎に腕を捕まれ制止された。
「行かなくて良いよ」
「でも、琥太郎さんのお母さんだし。お見送りした方が……」
戸惑っている間に、琥太郎の母親はヒールを履いて玄関の扉を開けていた。
「じゃ、詳細は後程送るわね」
パタン————。
僕と琥太郎とお見合い写真だけが取り残され、何とも静かな空気が流れた。
琥太郎の部屋にて。
「えっと……僕、帰りましょうか」
目の前には、琥太郎とその母が小さなちゃぶ台を挟んで座っている。
さすが琥太郎の母。美しすぎる。しかも、若い。琥太郎の年齢を考えれば四十代くらいだろうか。二十代後半といっても通じそうだ。
琥太郎は、そんな母親と目を合わせようともせず、至極不機嫌そうにしている。対して母親の方は、真剣な面持ちで琥太郎を見据えている。
この状況下に僕が混じっているのも不可思議で、早く自分の部屋に帰りたい衝動に駆られている。
「琥太郎。あなた、私の後を継ぐ気あるの?」
「……」
「はぁ……全くあなたは」
琥太郎の母親は溜め息を吐きながら、鞄から何やら分厚い写真台紙を取り出した。
「だろうなと思って、今回のお見合い話を持ってきたのよ」
「え!? お見合い!?」
驚けば、琥太郎の母親にキッと睨まれた。僕はその場で小さくなった。
それにしても、お見合いなんてさすが金持ち。政略結婚みたいな、そんな感じなのだろう。
(って、感心してる場合じゃなかった)
お見合いするということは、琥太郎はその娘とお付き合いないし結婚するということ。
しかし、後継問題を考えたら、普通に考えて男の僕より女の誰かの方が良いに決まってる。僕は潔く諦めるべきだろう。
そう思っていたら、琥太郎が不機嫌そうに言った。
「俺、恋人いるって言ったじゃん」
「どうせ何処の馬の骨とも分からない子でしょう? メリットあるの?」
「大有りだよ。俺の心の安寧」
「ハンッ。馬鹿馬鹿しい」
鼻で笑う琥太郎の母に、やや苛立ちを覚える。
ここでドラマや漫画の世界なら、『お言葉を返すようですが……』なんて反論でもするのだろうが、何せ僕は気が弱い。反論なんて夢のまた夢だ。
「この立花旅館の御子息と結婚すれば、うちの会社も安泰なのよ。私の後任も彼になら任せられるわ」
ん? 御子息? 彼?
そのワードに引っかかりを覚える。
琥太郎も何かに引っかかった模様。お見合い写真を奪い取って開いた。刹那、琥太郎の額に青筋が浮かんだ。
「却下」
「何でよ。良いお相手でしょう?」
「見た目が、まず無理」
「どこが。イケメンじゃない」
二人が言い合いする中、僕もそーッと琥太郎の手元の写真を覗いた。
「え? 男の人?」
思わず口に出してしまい、口を手で押さえる。
お見合いなので、てっきり女性だとばかり思っていた。
「智。母さんは俺がゲイだって知ってるから」
「そ、そうなんですね」
だからと言って、男性をお見合い相手に選ぶとは、理解のある母親だ。子供云々の問題は気にしていないのだろうかという疑問はあるものの、尊敬に値するかもしれない。
「でも、この人どこかで見たことあるような……」
「そりゃ、同じ大学なんだから、すれ違ったりとかしてるんじゃないかしら?」
琥太郎母に言われ、思い出した。
「え? もしかして、ボランティアサークルの?」
「チッ」
琥太郎が舌打ちした。
暫し黙ることにした。
「もしかして、コイツもゲイなの?」
「探すの苦労するのよ。大々的に、皆がカミングアウトしてる訳じゃないから」
「余計なお世話だよ。俺には心に決めた相手がいるから。おいで」
琥太郎に手招きされ、辺りを見渡す。
もしかしなくとも僕を呼んでいる。
琥太郎母は、意外な顔をして僕を見る。
「おいで」
もう一度優しく呼ばれ、僕は観念して琥太郎の横に座った。
「あ、あの……」
「俺の恋人の桐原 智くん。俺は智以外眼中にないから」
「よ、宜しくお願いします」
琥太郎に紹介され、顔が赤くなる。
「あら、今までとタイプが違うのね」
「まぁね」
「でも、どうせすぐ別れるんでしょ」
本人目の前に失礼な母親だ。
ややムッとするが、何度も言う。そこまでの度胸を持ち合わせていない。
「とにかく、来週の土曜日に会うことになってるから。宜しく頼むわね」
「俺は行かないから」
終始不機嫌な琥太郎は、お見合い写真をちゃぶ台の上に放り投げた。
琥太郎の母親は呆れたように立ち上がり、僕を見て優しく言った。
「あなたも、琥太郎のことが好きなら分かるわよね?」
そのまま玄関に向かったので、僕も立ちあがろうとすれば、琥太郎に腕を捕まれ制止された。
「行かなくて良いよ」
「でも、琥太郎さんのお母さんだし。お見送りした方が……」
戸惑っている間に、琥太郎の母親はヒールを履いて玄関の扉を開けていた。
「じゃ、詳細は後程送るわね」
パタン————。
僕と琥太郎とお見合い写真だけが取り残され、何とも静かな空気が流れた。



