警察の賢明な捜査もむなしく、第三の事件。そして第四の事件が起こる。
もうすぐ、一学期も終わろうとしていた頃だった。
「また、事件か」
事件は、わかりやすく僕らの周りで話題になった。翼さんは特に、親が心配してニュースを頻繁にチェックしているらしい。翼さん自身は、被害者とは身体的な特徴が似ても似つかないからそこまで不安がっている様子はなかったけれども、親からすれば犯人がいつ心変わりをして襲い掛かってくるかわからないのは怖いだろう。
そしてついに、事件の起こる範囲は大きく拡大した。これまで犯行は全て、隣県である良太たちの住む地域で行われていたはずだった。R殺しも現場は離れていたけれど、良太の家からなら乗り継ぎも必要はない。十分に移動圏内だった。
だが、第三の事件はついに僕の住む県で起こった。僕の家からは遠く離れているけれども、同じ県だということで千草も吉野もかなり怯えていた。僕はできるかぎり不安を和らげようと、適当な言葉をかけるけれども千草はともかく吉野にはあまり効果が内容だった。やっぱり、二人の僕へと向ける愛情の性質は大きく違う。
「わたし、死ぬのなら光誠くんに首を絞められて殺されたい」
そんなことを酔っ払いながらだとしても、千草は言葉にできるほどだった。
僕の下へと、やはり刑事はやってきた。ご苦労なことだと思う。
「母がいると都合が悪いでしょう。近くの喫茶店でどうですか?」
僕は、先に刑事が来たことを確認すると母にばれないように外へ出て、二人を待ち伏せた。同じくこわもてと若い女性刑事のコンビだったが、相変わらずだった。
女性刑事の方は、僕が犯人だと疑っているし、それを隠そうともしない。
「えっと、事件の日に何をしていたのか。聞いてもいいかな?」
まあ、別にそれくらいは答える。こうやって、美味しいコーヒーを奢ってもらっているわけだし、別に僕は警察の捜査を撹乱しようという意志なんて無い。普段から、市民の安全を守るために働いてくれているのだから、できるだけ協力したい。
「その日は、映画を見に行っていました。ちょうど、好きな監督の映画があったんですよ。たぶんですけど、家に映画のチケットも残っているはずです」
「それはどうして、映画のチケットを残しているの?」
さすがにここまで明らかに疑ってかかられては気分が悪いけれども、我慢しながら言葉を紡いだ。ひたすら冷静に、淡々と言葉を紡ぐことを意識しながら。
「どの映画を見たか記録するために、百均で売っているような写真を入れるアルバムに半券をしまってるんですよ。別に珍しいかもしれないけど、趣味として」
「なるほど」
女性刑事の方は、まだ何かを言いたそうだったけれども今回はこわもてが制すると素直に従っていた。前回のことで、少しはしぼられたのだろう。
「それで、僕からも質問させてもらってもいいですか?」
少し反撃というか、嫌がらせというか。やっぱり態度にいらいらしていたのかもしれない。予想通りに、僕の行動に二人ともが驚きの表情を見せる。
「ん? なにかな」
「警察は、ここまでにあったすべての犯行が同一犯と思っているんですか?」
警察がどのような見解をもって捜査をしているのかに興味があった。もちろん、同一犯だという説を推す人間もいれば、例えば県をまたいだ第三の事件、第四の事件は別の犯人だと考える人間もいるだろう、あくまで警察全体の見解が知りたかった。
例えば、期間が離れている彩音の死と、他の殺人は無関係という考えもある。
「警察としては、全てが同一犯だという見解で捜査を進めている。確かに、第三の事件は距離が離れているが、それでも例えば車があれば二時間で移動できる」
「なるほど」
確かに、距離感で言えばそれくらいだ。電車でも二時間もあれば間に合う。人を殺すのにどれくらいの時間がかかるかは知らないけど、半日もあれば僕でも第四の事件を終わらせて帰ってくることができる。もちろん、可能かどうかの話でしかない。
まあ、疑われても仕方がないとは思うけれども。
「それとも、君は違う見解を持っているのかな?」
「いえ、警察の方々と同じ意見です。同一地域に二人も、それも女子高生で容姿の似通った人間を殺害して回るような気違いがいてほしくはない」
一人。一人ならばまだいろいろと考えもある。例えば、怨恨とかお金のトラブルとか、犯人と被害者の間に何か事情があったかもしれないし、日本の裁判には情状酌量という制度もあるのがその証拠だ。僕も、そういう考えから疑われている。
だが、見た目の似た女子高生を殺して回るなんて愉快犯じゃないか。
もうすでに、犯人は少なくとも三人以上は殺しているだろう。
基準によれば、情状酌量も反省もなく死刑が確定している。
「警察もそれを信じているが、どうも犯人は賢いのか尻尾を見せない。それどころか、最近の被害者は犯人と争った跡までないんだ。だが、睡眠薬なども検出されていない。本当に、狡猾で残忍な人間だよ。いったい、どうなっているんだ」
こわもての刑事がそうつぶやいた。
どうやら、警察はそこまで頼りにならないようだ。
もうすぐ、一学期も終わろうとしていた頃だった。
「また、事件か」
事件は、わかりやすく僕らの周りで話題になった。翼さんは特に、親が心配してニュースを頻繁にチェックしているらしい。翼さん自身は、被害者とは身体的な特徴が似ても似つかないからそこまで不安がっている様子はなかったけれども、親からすれば犯人がいつ心変わりをして襲い掛かってくるかわからないのは怖いだろう。
そしてついに、事件の起こる範囲は大きく拡大した。これまで犯行は全て、隣県である良太たちの住む地域で行われていたはずだった。R殺しも現場は離れていたけれど、良太の家からなら乗り継ぎも必要はない。十分に移動圏内だった。
だが、第三の事件はついに僕の住む県で起こった。僕の家からは遠く離れているけれども、同じ県だということで千草も吉野もかなり怯えていた。僕はできるかぎり不安を和らげようと、適当な言葉をかけるけれども千草はともかく吉野にはあまり効果が内容だった。やっぱり、二人の僕へと向ける愛情の性質は大きく違う。
「わたし、死ぬのなら光誠くんに首を絞められて殺されたい」
そんなことを酔っ払いながらだとしても、千草は言葉にできるほどだった。
僕の下へと、やはり刑事はやってきた。ご苦労なことだと思う。
「母がいると都合が悪いでしょう。近くの喫茶店でどうですか?」
僕は、先に刑事が来たことを確認すると母にばれないように外へ出て、二人を待ち伏せた。同じくこわもてと若い女性刑事のコンビだったが、相変わらずだった。
女性刑事の方は、僕が犯人だと疑っているし、それを隠そうともしない。
「えっと、事件の日に何をしていたのか。聞いてもいいかな?」
まあ、別にそれくらいは答える。こうやって、美味しいコーヒーを奢ってもらっているわけだし、別に僕は警察の捜査を撹乱しようという意志なんて無い。普段から、市民の安全を守るために働いてくれているのだから、できるだけ協力したい。
「その日は、映画を見に行っていました。ちょうど、好きな監督の映画があったんですよ。たぶんですけど、家に映画のチケットも残っているはずです」
「それはどうして、映画のチケットを残しているの?」
さすがにここまで明らかに疑ってかかられては気分が悪いけれども、我慢しながら言葉を紡いだ。ひたすら冷静に、淡々と言葉を紡ぐことを意識しながら。
「どの映画を見たか記録するために、百均で売っているような写真を入れるアルバムに半券をしまってるんですよ。別に珍しいかもしれないけど、趣味として」
「なるほど」
女性刑事の方は、まだ何かを言いたそうだったけれども今回はこわもてが制すると素直に従っていた。前回のことで、少しはしぼられたのだろう。
「それで、僕からも質問させてもらってもいいですか?」
少し反撃というか、嫌がらせというか。やっぱり態度にいらいらしていたのかもしれない。予想通りに、僕の行動に二人ともが驚きの表情を見せる。
「ん? なにかな」
「警察は、ここまでにあったすべての犯行が同一犯と思っているんですか?」
警察がどのような見解をもって捜査をしているのかに興味があった。もちろん、同一犯だという説を推す人間もいれば、例えば県をまたいだ第三の事件、第四の事件は別の犯人だと考える人間もいるだろう、あくまで警察全体の見解が知りたかった。
例えば、期間が離れている彩音の死と、他の殺人は無関係という考えもある。
「警察としては、全てが同一犯だという見解で捜査を進めている。確かに、第三の事件は距離が離れているが、それでも例えば車があれば二時間で移動できる」
「なるほど」
確かに、距離感で言えばそれくらいだ。電車でも二時間もあれば間に合う。人を殺すのにどれくらいの時間がかかるかは知らないけど、半日もあれば僕でも第四の事件を終わらせて帰ってくることができる。もちろん、可能かどうかの話でしかない。
まあ、疑われても仕方がないとは思うけれども。
「それとも、君は違う見解を持っているのかな?」
「いえ、警察の方々と同じ意見です。同一地域に二人も、それも女子高生で容姿の似通った人間を殺害して回るような気違いがいてほしくはない」
一人。一人ならばまだいろいろと考えもある。例えば、怨恨とかお金のトラブルとか、犯人と被害者の間に何か事情があったかもしれないし、日本の裁判には情状酌量という制度もあるのがその証拠だ。僕も、そういう考えから疑われている。
だが、見た目の似た女子高生を殺して回るなんて愉快犯じゃないか。
もうすでに、犯人は少なくとも三人以上は殺しているだろう。
基準によれば、情状酌量も反省もなく死刑が確定している。
「警察もそれを信じているが、どうも犯人は賢いのか尻尾を見せない。それどころか、最近の被害者は犯人と争った跡までないんだ。だが、睡眠薬なども検出されていない。本当に、狡猾で残忍な人間だよ。いったい、どうなっているんだ」
こわもての刑事がそうつぶやいた。
どうやら、警察はそこまで頼りにならないようだ。
