【現実】
千草が息を荒げていた。彼女の体は満足したらしいけれど、僕の体が満足していないことに彼女は不満があるようだった。しかし、僕が千草を求めているわけでは無いから当然だろう。千草の感度がいいから体の相性は悪くないのだろうけど、僕の気持ちが何年もこうしているのに百パーセントで千草に向いたことは無い。
それでも、千草はそれを理解してもなお僕を求める。
「それで、どうしたの? 急に帰るんだからびっくりしたよ」
千草は器用に僕の男性器をなめながら話す。僕は別に隠すこともないだろうと思ったから、素直に話すことを決めた。下手な隠し事をしても徳がない。きっと、千草ならば僕がどんな隠し事を持っていても愛してくれるだろう。
僕が彩音への愛を信じるように、千草が僕を愛することも信じられた。
「小学校時代の友人が亡くなったんだよ。その通夜に行っていたから今日は休んだ」
その言葉を聞いて、千草はなんだか申し訳ない気持ちになったのか、かがめていた体を起こした。別にそんなことを気にしないでもいいのだが、さすがにそういうことをしている最中に人が亡くなった話をされると萎えるものか。
「その子は、男の子? 女の子?」
「女の子」
「それって、光誠君の好きな人?」
「ああ、そうだよ。前にも話したか」
自分の好いている男から、その男が好きな女の話を聞かされるなんて残酷な話ではあるが、それも千草が望んだことだ。僕はべらべらと彩音について話すようなことは嫌いだけど、そのころの僕はある意味の誠意というか千草に対してその愛に応えてあげられない理由の説明として彼女のことを話していた。
「うん。それは、つらかったよね」
千草は僕を包み込むように抱きしめた。僕はただされるがままに、腕をだらりと伸ばしている。冷蔵庫がぶうんとなる音が、静かな部屋に響いた。僕の手が千草の背中に回ることは無かった。千草は、その体全体で僕を撫でるように癒していた。
「よしよし、よく頑張ったね」
だけど、僕だってある程度の感情くらいなら読める。
千草の声には、憐れみと愛情と、それよりもはるかに大きな喜びが混じっていた。
【過去】
僕と千草が初めて体で結ばれたのは、中学二年の夏だった。
そのころには学校になんてとっくになじみ、引退の早い部活では二年生が最上級生となるなど、どんどん学校の生活が大変に、そして充実してくるころだ。それと同時に、男女間での交際なんて話もちらほらと上がってくる。
そのころにはいわゆる初体験を済ませた人もいるなんて噂も流れるほどだった。僕はその噂をすべて信じるわけではないけれど、彩音とそれをすることで永遠の愛を確かめたいと思う気持ちもあった。性欲にしっかりと理由を求めた。
小学生の頃は、彩音を汚すことをどこまでも恐れていたはずの僕は、そのころには肥大する性欲を抑えられずに常に彼女のことを考えて、股間を膨らませるほどであった。そのころには、彼女の裸体や恥部などでなくても彼女の顔を思い浮かべるだけですぐさま卑猥な妄想へと変化するほど、病的なほどの性欲が僕のことを襲っていた。
心の内側に、確かに性欲という病巣がすくっていた。
「花火を見に行かない?」
そんな中で、彩音から花火大会の誘いがあった。
その会場は、ちょうど、僕の引っ越した先と彩音の住む場所の中間くらいで県境をまたぐことも無い。彩音の親も心配はしていたけれど、彼女が寂しい思いをしているというのは両親もわかっていたから九時までには自宅の最寄り駅へ到着することを条件に花火大会へと行くことを許してもらえたと、電話口で嬉しそうに言っていた。
「もちろん行こう。今から楽しみにしてる」
「浴衣も着ていくから。楽しみにしててね」
僕はその時に、花火大会の夜が初夜になると期待したものだ。もちろん、性欲の発散という目的もあったけれどもそれよりも、僕が彼女の初めての相手であるという事実が欲しかった。彼女と僕の愛を確かめる方法として、デートの別れ際にかわすフレンチキスでは、とてもじゃないけれども物足りなくなっていた。
いずれ、結婚するのだから問題は無いだろうと思っていたのだが、彼女は違ったようだった。思えば、ここが彩音と交際を始めてから最初のすれ違いだった。
花火大会の夜は、いつも通りに僕たちは二人で仲良く屋台を見て回った。綿あめを食べさせあい、綺麗なスーパーボールを掬ってやった。二人、はぐれないように手を繋いでいたけれど、僕はそのときにも彼女との会話を考えるその小さな隙間で、この小さな手が僕の性器に触れればどれほどの快感だろうと想像していた。
そして、花火を見終えて群衆が解散の流れとなったところでそれは訪れた。
「すぐに戻ると危険だから、もう少しだけここで待っていよう」
僕がそう提案すると、彩音も頷いた。毎年、花火大会やハロウィンなどで群衆が崩れて人が怪我をする。ひどいときには死に至るなどのニュースが連日のように流れて、警鐘を鳴らしていた。そんな馬鹿馬鹿しい死に方などごめんだ。
駅が見える、少し離れたところで時間を潰していた。
「ねえ、今日の浴衣はどうかな?」
彩音はベンチに座る僕の前で、くるりと回転して浴衣をはばたかせた。その白を基調にした浴衣はとても可愛らしく、肌の白い彼女の体も相まって、夜の闇でも十分に光を放っていた。とてもまぶしく、僕の視線を奪う。
「可愛いよ。やっぱり、彩音は何を着ても可愛い」
僕がそういうと、彩音は嬉しそうに笑う。そして、当たりを見渡したかと思うとそのまま僕を座らせたままにキスをした。かき氷の甘い味が、唇に染み込んでくる。
いつもはこれで満たされていたはずなのに、僕の渇きは埋まらなかった。
もう、何度目かもわからないキス。だけど、まだまだ明かりを灯した屋台などが近くにあり、僕たちのように駅が空くのを待っている人たちからも近かったために僕は彼女を少しくらい雑木林へと誘導した。そして、そのまま今度は僕からキスをした。
彼女の体と頭を押さえて、力強く唇を重ねる。
「どうしたの? 今日はなんだか激しいよ?」
彩音は笑ってそういった。だけど、僕はそれをちゃんと聞いている余裕は無かった。僕は彼女の体を引き寄せて、その小ぶりな臀部に右手を這わせた。
「ちょっと、どうしたの?」
彩音は笑って、僕の右手をはねのける。僕の右手には彼女の抱きしめた体から得られる温かみとは違って、人間が本能的にそれを求めるような温もりがあった。
僕はそのことしか考えられずに、再びその果実に危険だとわかりながらも手を伸ばす。しかし、その手が触れた瞬間に僕は突き飛ばされた。慌てて、バランスを取ろうとするけれども、驚きのあまりに力が入らず、無様にもしりもちをついてしまう。
「どうしたの? なんだか怖いよ」
彩音は体を小さくして震えている。僕に対して怯えているのか、それとも無意識のうちに突き飛ばした自分の行動に怯えているのか。それはわからなかったけれども、唇の色が優れていなかったことは確かだ。暗いけれどもわかるほど、青く染まる。
「いや、僕は愛を」
そこまで言ったところで、彼女が遮るように言った。
「私は、もちろん男の子がそういうことに興味があるのも知ってるけど、そういうことは結婚してからがいい。今日の光誠君は、なんだか、怖い」
僕はその言葉を聞いたとたんに、ひどい絶望に襲われた。だけど、彩音はそんな僕を放って走って去っていった。僕は彼女のその感触を思い出して、一人で興奮する男性器を沈めた。それがどうしてもむなしくて、悲しくて涙が出てきた。
千草が息を荒げていた。彼女の体は満足したらしいけれど、僕の体が満足していないことに彼女は不満があるようだった。しかし、僕が千草を求めているわけでは無いから当然だろう。千草の感度がいいから体の相性は悪くないのだろうけど、僕の気持ちが何年もこうしているのに百パーセントで千草に向いたことは無い。
それでも、千草はそれを理解してもなお僕を求める。
「それで、どうしたの? 急に帰るんだからびっくりしたよ」
千草は器用に僕の男性器をなめながら話す。僕は別に隠すこともないだろうと思ったから、素直に話すことを決めた。下手な隠し事をしても徳がない。きっと、千草ならば僕がどんな隠し事を持っていても愛してくれるだろう。
僕が彩音への愛を信じるように、千草が僕を愛することも信じられた。
「小学校時代の友人が亡くなったんだよ。その通夜に行っていたから今日は休んだ」
その言葉を聞いて、千草はなんだか申し訳ない気持ちになったのか、かがめていた体を起こした。別にそんなことを気にしないでもいいのだが、さすがにそういうことをしている最中に人が亡くなった話をされると萎えるものか。
「その子は、男の子? 女の子?」
「女の子」
「それって、光誠君の好きな人?」
「ああ、そうだよ。前にも話したか」
自分の好いている男から、その男が好きな女の話を聞かされるなんて残酷な話ではあるが、それも千草が望んだことだ。僕はべらべらと彩音について話すようなことは嫌いだけど、そのころの僕はある意味の誠意というか千草に対してその愛に応えてあげられない理由の説明として彼女のことを話していた。
「うん。それは、つらかったよね」
千草は僕を包み込むように抱きしめた。僕はただされるがままに、腕をだらりと伸ばしている。冷蔵庫がぶうんとなる音が、静かな部屋に響いた。僕の手が千草の背中に回ることは無かった。千草は、その体全体で僕を撫でるように癒していた。
「よしよし、よく頑張ったね」
だけど、僕だってある程度の感情くらいなら読める。
千草の声には、憐れみと愛情と、それよりもはるかに大きな喜びが混じっていた。
【過去】
僕と千草が初めて体で結ばれたのは、中学二年の夏だった。
そのころには学校になんてとっくになじみ、引退の早い部活では二年生が最上級生となるなど、どんどん学校の生活が大変に、そして充実してくるころだ。それと同時に、男女間での交際なんて話もちらほらと上がってくる。
そのころにはいわゆる初体験を済ませた人もいるなんて噂も流れるほどだった。僕はその噂をすべて信じるわけではないけれど、彩音とそれをすることで永遠の愛を確かめたいと思う気持ちもあった。性欲にしっかりと理由を求めた。
小学生の頃は、彩音を汚すことをどこまでも恐れていたはずの僕は、そのころには肥大する性欲を抑えられずに常に彼女のことを考えて、股間を膨らませるほどであった。そのころには、彼女の裸体や恥部などでなくても彼女の顔を思い浮かべるだけですぐさま卑猥な妄想へと変化するほど、病的なほどの性欲が僕のことを襲っていた。
心の内側に、確かに性欲という病巣がすくっていた。
「花火を見に行かない?」
そんな中で、彩音から花火大会の誘いがあった。
その会場は、ちょうど、僕の引っ越した先と彩音の住む場所の中間くらいで県境をまたぐことも無い。彩音の親も心配はしていたけれど、彼女が寂しい思いをしているというのは両親もわかっていたから九時までには自宅の最寄り駅へ到着することを条件に花火大会へと行くことを許してもらえたと、電話口で嬉しそうに言っていた。
「もちろん行こう。今から楽しみにしてる」
「浴衣も着ていくから。楽しみにしててね」
僕はその時に、花火大会の夜が初夜になると期待したものだ。もちろん、性欲の発散という目的もあったけれどもそれよりも、僕が彼女の初めての相手であるという事実が欲しかった。彼女と僕の愛を確かめる方法として、デートの別れ際にかわすフレンチキスでは、とてもじゃないけれども物足りなくなっていた。
いずれ、結婚するのだから問題は無いだろうと思っていたのだが、彼女は違ったようだった。思えば、ここが彩音と交際を始めてから最初のすれ違いだった。
花火大会の夜は、いつも通りに僕たちは二人で仲良く屋台を見て回った。綿あめを食べさせあい、綺麗なスーパーボールを掬ってやった。二人、はぐれないように手を繋いでいたけれど、僕はそのときにも彼女との会話を考えるその小さな隙間で、この小さな手が僕の性器に触れればどれほどの快感だろうと想像していた。
そして、花火を見終えて群衆が解散の流れとなったところでそれは訪れた。
「すぐに戻ると危険だから、もう少しだけここで待っていよう」
僕がそう提案すると、彩音も頷いた。毎年、花火大会やハロウィンなどで群衆が崩れて人が怪我をする。ひどいときには死に至るなどのニュースが連日のように流れて、警鐘を鳴らしていた。そんな馬鹿馬鹿しい死に方などごめんだ。
駅が見える、少し離れたところで時間を潰していた。
「ねえ、今日の浴衣はどうかな?」
彩音はベンチに座る僕の前で、くるりと回転して浴衣をはばたかせた。その白を基調にした浴衣はとても可愛らしく、肌の白い彼女の体も相まって、夜の闇でも十分に光を放っていた。とてもまぶしく、僕の視線を奪う。
「可愛いよ。やっぱり、彩音は何を着ても可愛い」
僕がそういうと、彩音は嬉しそうに笑う。そして、当たりを見渡したかと思うとそのまま僕を座らせたままにキスをした。かき氷の甘い味が、唇に染み込んでくる。
いつもはこれで満たされていたはずなのに、僕の渇きは埋まらなかった。
もう、何度目かもわからないキス。だけど、まだまだ明かりを灯した屋台などが近くにあり、僕たちのように駅が空くのを待っている人たちからも近かったために僕は彼女を少しくらい雑木林へと誘導した。そして、そのまま今度は僕からキスをした。
彼女の体と頭を押さえて、力強く唇を重ねる。
「どうしたの? 今日はなんだか激しいよ?」
彩音は笑ってそういった。だけど、僕はそれをちゃんと聞いている余裕は無かった。僕は彼女の体を引き寄せて、その小ぶりな臀部に右手を這わせた。
「ちょっと、どうしたの?」
彩音は笑って、僕の右手をはねのける。僕の右手には彼女の抱きしめた体から得られる温かみとは違って、人間が本能的にそれを求めるような温もりがあった。
僕はそのことしか考えられずに、再びその果実に危険だとわかりながらも手を伸ばす。しかし、その手が触れた瞬間に僕は突き飛ばされた。慌てて、バランスを取ろうとするけれども、驚きのあまりに力が入らず、無様にもしりもちをついてしまう。
「どうしたの? なんだか怖いよ」
彩音は体を小さくして震えている。僕に対して怯えているのか、それとも無意識のうちに突き飛ばした自分の行動に怯えているのか。それはわからなかったけれども、唇の色が優れていなかったことは確かだ。暗いけれどもわかるほど、青く染まる。
「いや、僕は愛を」
そこまで言ったところで、彼女が遮るように言った。
「私は、もちろん男の子がそういうことに興味があるのも知ってるけど、そういうことは結婚してからがいい。今日の光誠君は、なんだか、怖い」
僕はその言葉を聞いたとたんに、ひどい絶望に襲われた。だけど、彩音はそんな僕を放って走って去っていった。僕は彼女のその感触を思い出して、一人で興奮する男性器を沈めた。それがどうしてもむなしくて、悲しくて涙が出てきた。
