そんな柚葉に意地悪く答える桜久耶。
「……あれが東條家長男の花嫁か。とても綺麗だな」
「遊郭で育ったって聞いたが全然そんな感じしないなぁ。芯の強そうな女性だ」
問題も解決し、視線が一気に柚葉と桜久耶に向いた。ヒソヒソと話す声も聞こえ、柚葉は一層縮こまる。
「これから私はお前にもう一度結婚の申し込みをしようとしてるのだから、降りられては困る」
「へっ?!だ、旦那様?!」
桜久耶は人目気にせず柚葉を強く優しく抱きしめた。ふわっと優しく包み込む腕の中はとても暖かい。
(……なんだか、幸せね)
柚葉はそのまま大人しく桜久耶に抱きしめられながら幸せを感じた。そして、桜久耶はゆっくりと柚葉から離れると。
その場で跪き、柚葉の左手をとった。
「柚葉。これからも、私の傍で笑っていてくれるか?私は柚葉のことを心から愛している。柚葉と生涯を共に歩みたい。この奇跡の赤い糸がまた繋がったように、夫婦として絆を深めたい。どうか……私の手を取ってくれるだろうか」
桜久耶は柚葉に対しての気持ちを素直に話した。2度目の結婚の申し込みに柚葉は嬉しくて幸せで。
気づいたら、涙を流していた。
「……は、い。不束者ですが、よろしくお願いいたします。私の……大好きな旦那様」
柚葉は止まらぬ涙を拭いながら、桜久耶の手を取った。
園遊会の途中だということも、みんなが見てるということも忘れ、柚葉と桜久耶は見つめ合う。
「ありがとう。これからも、絶対幸せにする。柚葉。愛してる」
桜久耶はそう言い切ったあと。
優しい口付けを柚葉のくちびるに落とした。幸せでいっぱいな2人に見ていた人達は祝福の拍手を送る。
「……桜久耶。私の孫を、頼んだぞ」
それに乗るように皇帝はボソッと呟いた。涙を流しながら、柚葉を見つめる。皇帝の子息夫婦も柚葉達を祝福した。
「……んっ、はぁ……。旦那様。幸せを、ありがとうございます」
自分は幸せになってはいけないと思い込んでいた柚葉。誰にも愛されず、死にたいと願っていた人生。
このまま誰にも見つからず終わると思っていたが……奇跡の、運命の赤い糸はしっかりと柚葉と桜久耶の左手の小指に巻きついていた。
今までよりも濃く、太く、しっかりと。
「……生まれてきてくれて、ありがとう」
柚葉と桜久耶は、幸せな誓いを交わした。2人見つめあって、笑い合う。最高の幸せの瞬間。
無能だと思っていた柚葉は、誰かの幸せのために生まれてきた。それは、桜久耶という最高の旦那様。
柚葉の異能は……『透視』と誰かを幸せにする『癒し』。そのふたつは、桜久耶のために使われた。
柚葉はもう……無能などではない。
「旦那様。愛してます」
幸せな気持ちを抱えて、柚葉は優しく微笑んだ。
これが1人の妓女の幸せになるまでのお話。
ひとつのシンデレラストーリー。
これからも幸せのために自分を信じ、人を愛する。
この気持ちを、忘れずに……。
《終わり》



