今にも泣き出しそうな表情とともに柚葉への嫉妬が止まらない朱里。朱里は舞台のすぐそばまで来ると。
サッと細長いなにかを取り出した。
「私の方が桜久耶様のことをわかってるのよ!なのに……なのに!皇帝の孫だかなんだか知らないけど、貴方は桜久耶様の嫁に相応しくない!また2人の縁を断ち切ってやる!」
朱里は興奮したままその道具……“縁切りバサミ”を突き出したまま柚葉と桜久耶の間に入ろうとする。
そして、目に見えない赤い糸を切ろうとハサミを向けた。
「……そこまでだ。お前が……朝雲家の人間と手を組み、私の大事な孫とその旦那を切り離そうとした犯人だな」
興奮した朱里の腕を横から掴んだのは。
舞台裏で待機していた皇帝だった。まさかの皇帝の登場にまた会場がざわつき始める。
朝雲家の人間は逃げ出そうと試みるけど。
「ちょっと……!離しなさいよ!なんで私たちが悪者の扱いなのよ!」
いつの間にか皇帝の側近たちが周りを囲っていて。優美とその両親は呆気なく捕まった。
急激な展開に周りの人はついていけてない。
みんなぽかん、としたまま舞台を見上げていた。お祝いの席のはずなのにこんなことになるなんて誰が思っただろう。
(……西園寺さん、そんなに私のことを恨んでいたのね。なのに私ったら……)
「は、離して!なんで皇帝の孫が桜久耶様の花嫁なのよ!私は悪くないわ!邪魔者を排除しようとしただけよ」
皇帝に掴まれてもまだ暴れようとする朱里。どうしようもない状況に桜久耶はじっと見つめるばかりだ。
「まだ言うか!私に逆らうとはいい度胸だな。どんな処罰が待っているのか楽しみに待っておれ。私の息子の大事な晴れ舞台を壊した罪、大事な孫の記憶を奪った罪は相当重いぞ」
皇帝は暴れる朱里の腕に力を込める。迫力満点の皇帝の言葉と表情にとうとう朱里は黙り込んだ。
「……西園寺さん。そんな思いを持っていたの、知らなくてごめんなさい」
「貴方に謝られたくないわ!その謝られるのも嫌なのよ!」
この状況に耐えきれなくなった柚葉は思わず頭を下げた。柚葉は何も悪くない。これは桜久耶と柚葉の運命の仕業。
桜久耶の赤い糸はたしかに柚葉を捉えていた。運命には逆らうことはできない。だから、柚葉が桜久耶に愛されるのは必然的だった。
「それでも。私は西園寺さんと過ごした時間は幸せだった。こんな私の世話を妬いてくれて。そのことは本当に感謝しています」



