焦って、慌てて傍から見たら何をしているのだろう、という仕草なのだが犯人は真面目に“見えない壁”と戦っていた。



「……おい、貴様。私の嫁に何をした。言ってみろ」


「なんだなんだ?東條桜久耶の嫁だと?」



桜久耶はそんな犯人をぎろっと睨むと大きな声で話しかけた。それに周りの招待客はザワザワと騒ぎ出す。


実は東條家の婚約はまだ公になっていなかった。嫁と聞いてみんな不思議そうに首を傾げる。


柚葉は桜久耶の隣に立ち、背筋をピン、と伸ばしている。こんなふうにたくさんの人の前に出たことがない柚葉は。


緊張のあまり、冷や汗が止まらなかった。



(大丈夫、大丈夫。旦那様がきっと犯人を捕まえてくれるわ)



招待客の視線を気にしないように柚葉は犯人だけをまっすぐ見つめた。



「なにか言ったらどうだ。……西園寺朱里!」



桜久耶ははっきりと犯人の名前を叫んだ。怒りにも満ちた声に会場にいた誰もが息を呑む。


そして、朝雲家の人間はというと。


顔を真っ青に染めながら、事の行方を見守っていた。


……いや、動けなかった。


このようにみんなの前で犯人探しが始まると思っていなかったのだから。



「さすが桜久耶様ですね。私があの魔道具を持ち出したと、最初からわかっていましたね?」


「西園寺さん……!なんで、そんなこと……!」



朱里ははぁ、とため息を着くと認めたように振り返り桜久耶と視線を合わせた。その様子を見て柚葉は信じていた気持ちが粉々に砕かれたような感覚に陥った。


ショックで、その場に崩れ落ちてしまいそうになる。


だけど。



(……私がここで倒れてはダメよ。自分の力を信じて、立ち向かわなきゃ)



柚葉は自分の気持ちを奮い立たせて、朱里と向き合った。



「なんでって?それは桜久耶様が取られるのが嫌だったからよ!私の方が前から桜久耶様のことを知っていて、傍にいたのに。なんで他所から来た貴方の方が愛されてるのよ!」



朱里は感情のままに叫んだ。その叫びは、柚葉に対しての嫉妬の気持ちで溢れていて。会場にいる誰もが朱里に呆れていた。


朱里は舞台の方に近づいてくる。



「まぁ、最初はしょうがないと思って過ごしていたわよ。でも……愛し合ってるあなた達を見て、どうしようもなく苦しかったの!わかる?このどうしようもない気持ち!」