顔を真っ赤に染め、柚葉は視線を逸らした。まっすぐに桜久耶のことを見ることは出来なかった。



(私ったら、何をやっているのかしら)



そんなこんなしているうちに桜久耶の演武が始まった。会場は一気に静まり返り、桜久耶は構える。


柚葉はひとつ深呼吸すると会場を見渡し、桜久耶の言っていた“犯人”を見つけることに集中する。



(犯人だと信じたくないけど、旦那様の言っていることが本当だったら……許しておけないわ。勝手に人の道具持ち出して、悪いことをしてるんだもの)



桜久耶が踊り出すと会場のみんな舞台に釘付けになった。男性の舞は女性よりも美しさがどうしても欠けてしまう。


みんなそう思っていたはずだったのに。


桜久耶は、そんな考えとは裏腹に優美よりも美しい舞を踊っていた。踊りの内容は違うけれど指先まで洗礼された動き。


端から端まで美しさでできた踊りを見たのはみんな初めてだった。


誰もがその美しさに息を呑んでしまうほど、会場は静かだった。おかげで柚葉は犯人を見つけることに集中できたのだ。



(……いたわ。本当に会場にいたのね。旦那様から何も仕事は出されていないはずなのに、ここにいる人物。見つけたわ)



柚葉の視線の先には桜久耶の言っていた犯人がいた。その犯人は東條家で働いている使用人。


その犯人が魔道具を持ち出し、朝雲家と協力して柚葉と桜久耶を引き離そうとした。


柚葉は桜久耶に見つけたという合図を送る。柚葉はドキドキしながら、桜久耶を見つめた。


するとすぐに桜久耶は反応し、視線を柚葉に合わせた。


ーー次の瞬間。



「……柚葉。舞台に上がれ」



桜久耶は踊りを止めると。舞台袖にいた柚葉に声をかけた。その様子に会場にいた誰もが驚いた。


中でも一番驚いていたのは朝雲家の人間だった。



「……なんでお姉様の名前が呼ばれたの?お姉様はここにいないはずじゃ……」


「そうよ。ここにいるはずないわ。……ちょっと控え室を見てきなさい」



優美と母親は桜久耶の言葉に落ち着かなくなり、近くにいた1人の妓女に確認するように指示を出す。


焦っていたのは朝雲家の人間だけじゃなかった。


……魔道具を持ち出した犯人も内心焦っていて。会場から急いで出ようとしたけど。



「……あ、れ……?出られない……?なんで……!」



出入口付近でその犯人は足止めを食らっていた。