「……それでは、最終演目。東條桜久耶様による演武の披露です。それでは、よろしくお願いいたします」
(……いよいよ、旦那様が披露する時間になったわね。私はここにいても大丈夫かしら……)
司会者の言葉と共に園遊会の会場は大いに盛り上がっていた。桜久耶の演武は一番の見もので、優美が二番目に重要な項目に回される程だった。
東條家の演武は会場にいる皆に幸福をもたらし、悪い縁を断ち切るという噂もあるほど、由緒正しき踊り。
桜久耶はこの日のために何時間も何十時間も踊りの稽古に時間を費やした。柚葉を取り戻す時間も惜しんで、練習したのには理由があった。
……それは今回の事件の犯人を炙り出すため。桜久耶なら柚葉を取り戻すことは簡単なことだった。
皇帝の力でも、自分の力を最大限に使ってもいい。それなのに、桜久耶はそうはしなかった。
「……桜久耶様の踊り楽しみね。優美も素晴らしい舞だったわ。後で美味しいものでも食べに行きましょう」
「ありがとう、お母様。無事に成功してよかったわ。ご子息様も満足そうだったわね」
柚葉が舞台袖で待機していると近くでヒソヒソと優美と母親が話している声が聞こえ、ドキッと心臓が跳ね上がる。
柚葉の存在は再び“姿隠れの術”で存在感を感じることは無い。だけどそれでも緊張するのには変わりなかった。
(まさか近くに優美たちがいるなんて。私、大丈夫かしら)
そんな朝雲家の人間を見て柚葉は自信を無くす。だけどそれを振り払うように気を引き締め、桜久耶の出番を待った。
……数分後。
桜久耶は武礼装を身にまとって舞台に上がった。いつもとは違う服装に柚葉は今度は違う意味でドキッとした。
柚葉の心臓は忙しく跳ね上がる。
(ど、どうしましょう。仕事用の衣装でいる旦那様を見るのは初めてだわ。とても格好いいわね)
少しの間、柚葉は作戦のことを忘れて桜久耶に見とれていた。
仕事している時の様子をあまり知らなかった柚葉は新鮮な気持ちで桜久耶を見つめる。だけどすぐにはっと我に返った。
(ダメよ。今はそんなこと考えてる場合じゃないわ。しっかりしないと)
ぱん、と頬を手で叩いて気合いを入れ直す柚葉。それを桜久耶はちらっと見てしまった。
何をしてるんだ?と言わんばかりの目で見られ、柚葉は急に恥ずかしくなる。



