朱里からの誘いを強く断っておけばこうはならなかった。自分勝手の判断で事件に巻き込まれて。


柚葉は記憶を失ったのだ。



「そうは言ってもだな……。本当はあの魔道具は持ち出し禁止で厳重に東條家で保管していたのだ。こちらのミスで柚葉に辛い思いをさせたのは変わりない。……どうにかして犯人を炙り出したい」


「そ、そうだったんですね。ですが、その犯人は目星ついているのですか?」


「……まぁ、な。とりあえず私はこの後の演武に出てくる。柚葉はここで待っているといい」



柚葉の言葉に桜久耶は答えを濁す。犯人の目星がついてると言っているが柚葉はさっぱり分からなかった。



(それにしても私はとんでもない魔道具に操られていたのね。優美の使い方も恐ろしいけど、優美に道具を渡した犯人はもっと恐ろしいわ。……私に、なにか恨みでもあるのかしら)



柚葉は縁切りバサミのことを聞いてゾッと背中に寒気が走る。


この世にこんな魔道具があるなんて初めて知った柚葉。


桜久耶は申し訳なさそうに柚葉を見ながら準備をするため、部屋から出ていこうとした。



「それじゃあ、行ってくる」


「だ、旦那様。犯人の目星がついてるなら、私も協力します。私に何かしらの異能があるなら、それを使って……犯人を、見つけ出します」



柚葉は出ていこうとした桜久耶の袖を引っ張ると。覚悟を決めた表情で桜久耶を見つめた。


柚葉の異能は柚葉にまだ明かされていない。桜久耶は皇帝から話を聞いて知っている。そのことを薄々感じていた柚葉は。


一か八かの引き止めでそう宣言した。


もうあのころの弱い柚葉はどこにもいなかった。覚悟を決めた柚葉の表情は、どこか大人びていて。


桜久耶も見惚れる程、美しく成長していた。



「……わかった。柚葉がそこまで言うなら私の手伝いをしてもらおう。これから私が行う犯人の見つけ方に、同意してもらおう」


「ありがとうございます。旦那様のお役に立てるよう、頑張ります」



柚葉の覚悟を見た桜久耶は止めても無駄だと悟った。その真剣な眼差しを桜久耶は受け止め、柚葉を信じた。


そして、柚葉に犯人について、そしてこれからの作戦について話した。



「……以上が作戦についてだ。まだはっきりわかったことではないが、柚葉に手伝ってもらえることはたくさんある。よろしく頼むぞ」


「はい。まだ、気持ちの整理は付いてませんが……頑張ります」



柚葉は犯人について信じきれない気持ちと桜久耶を疑いたくない気持ちでいっぱいだった。


しかし、柚葉の気持ちは変わらない。


今回の事件は決してあってはならないこと。東條家の花嫁として、柚葉は気持ちを固め、桜久耶の作戦に挑んだのだった。