柚葉が物心ついた頃から家族にこき使われ、雑用をこなす。愛されるのはいつも妹の優美だけだった。



「本当にわかってるの?今回もし失敗でもしたら……ただじゃ済まないからね?」


「はい」



今夜はもしかしたら高貴な方のお迎えがあるのかもしれない。母親が念入りに柚葉に話をする時はいつもそうだった。


母親は柚葉が頷いたことを確認したあと、盛大にため息を着くとようやくこの場から離れていく。


柚葉は何も考えることはせず黙々と作業を進めた。


朝になりこの館にいるみんなが寝始める頃。柚葉だけが一晩中起きていたにも関わらず、全ての作業を任されていた。



(自分は生きている価値あるのかしら)



ふと柚葉は思った。


毎日毎日同じ仕事の繰り返し。時には家族に暴力振るわれ、身も心もボロボロで。18歳になる娘だというのに見合い話ひとつもない。


ただただ、この命が尽きるのをこの館で待っているような状態で。


生きる希望はとっくの昔に投げ捨てていた。


ぼんやりと息をしながら、窓の外を眺める。柚葉は花魁道中の時以外、館の外に出ることは許されていなかった。


***


数時間仮眠をとっていた柚葉は母親に叩き起された。



「早く起きなさい!何私たちよりも長く寝てるの!優美の準備しなさいよ!」



母親は手に持っていた竹刀のようなものを容赦なく柚葉に振り下ろす。寝起きで頭が回らない柚葉は当然避けることができず。


スパーン!という音と共に体に鋭い痛みが走った。



「も、申し訳ございません。今すぐに……きゃ!」


「うるさい!なんでお前が優美よりも体を休めてるんだ!今日は大事な花魁道中の日だとあれほど言ったのに!」



母親は虫の居所が悪いのか竹刀で柚葉を何度も何度も叩く。柚葉は何がなんだか分からず、ただただ痛みを体に受けながら小さくなる。



「お前はっ!優美の大事なっ……」



興奮しているのか何か話そうとしているのに言葉が続かない母親。その時、襖が開く音が聞こえ、一瞬部屋が静まり返った。



「お母様。今、ここでお姉様に言っても無駄よ」



優美はいつの間にか花魁道中で着る着物に着替えており、髪の毛のセットも完璧に終わっていた。


柚葉は痛む体を抑えながらゆっくりと顔を上げる。



「こんなみすぼらしいお姉様に“あんな話”信じられる?きっとあの方の間違いよ。お母様が信じることはないわ」