そんなことを柚葉は考えていた。



「そうだな。とりあえずこの部屋出よう。また朝雲家に見つかったら大変なことになる。皇帝様も柚葉のことを待っているからな」


「わ、わかりました。……旦那様は時間とか大丈夫なんですか?」


(園遊会はもう始まってるはず。旦那様も演目ででなければいけないのに……私なんかのために時間使ってくれて)


「時間は大丈夫だ。皇帝様が私の演目は最後に調整してくれた。だからそこの心配はするな。ほら、行くぞ」



桜久耶は心配そうに見つめる柚葉の頭をぽん、と撫でたあと。


柚葉の小さな手を握りしめ控え室から飛び出すように出ていった。



「本当に、何から何までありがとうございます……」



柚葉はお礼をいいながらまた涙を流す。力強い桜久耶の手を握り返し、ただひたすらに走った。


また優美や母親に見つかったら何をされるか分からない。そんな不安も心の中に残っていたが桜久耶と一緒なら大丈夫だと思えた。



「……皇帝様。柚葉を連れてきました」



ひたすら走り、気づいたら柚葉と桜久耶は皇帝の部屋の前にいた。桜久耶は迷うことなく声をかける。



「戻ったか。入れ」



しばらくすると部屋の中から皇帝の声が聞こえ、桜久耶が扉を開けた。すると、そこには今にも泣き出しそうな皇帝がいた。


その姿に柚葉と桜久耶は思わずぎょっとする。



「こ、皇帝様……大丈夫ですか?」



そんな様子に思わず桜久耶は声をかけた。柚葉も戸惑いながら皇帝と視線を合わせる。



「よかった……柚葉が無事に戻ってきたんだな。桜久耶、よくやった」


「はい。一か八かの作戦でしたが柚葉の記憶も何とか戻ったようです。色々とご迷惑おかけしました」



桜久耶は皇帝に頭を下げる。柚葉もつられて一緒に頭を下げた。



「とんでもない。しかし……朝雲家の人間はここまで人の心がないとはな。放っておいた私も悪いが、もう許さん」


「そうですよね。処分の方は如何なさいますか?」



柚葉を置いて2人は朝雲家のことについて話し始めた。



(私の家族は一体どうなるのかしら。皇帝様に目をつけられて……。きっと何かしらの処分は下されるわよね)



皇帝に目をつけられたら、その家は色々失うだろう。皇帝の大事な孫を傷つけた朝雲家はどうなってしまうのか。


柚葉は不安になってしまった。



「皇帝様。この話は柚葉のいない所でしましょう。怯えています」