「……私、旦那様のこと、忘れて……。私、今まで何やってきたの」



桜久耶との思い出が一気に蘇り、柚葉は号泣した。


止まらない涙は滝のように流れ落ち、桜久耶に対しての愛おしい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


優美たちに洗脳されていたことに気づいた柚葉は、桜久耶に会いたくて仕方なかった。



「柚葉。……私のことを、思い出したか?」


「……旦那様!なんで、ここに」



柚葉は控え室で座り込みながら泣いていると。扉の目の前で桜久耶が立っていた。声を聞いて顔を上げる柚葉。


懐かしい声に懐かしい匂い。


桜久耶を思い出した柚葉は。無意識に立ち上がり桜久耶の元へと走りよる。



「ごめんなさい。私……何もかも忘れて。本当に申し訳ございません。旦那様……今、思い出しました」


「そうか。よかった。柚葉の記憶が戻って安心した」



桜久耶は泣き続ける柚葉をそっと抱きしめる。頭を優しく撫でて、ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。



「……旦那様。なんで私の記憶が戻ったのか分かりますか?」



桜久耶の温もりに包まれながらそっと顔を上げる柚葉。涙を拭いながら、しっかりと桜久耶の目を見て話した。



「なんだろうな。私には分からないな」



桜久耶は自分の異能を使ったのだが分からないフリをしてすっとぼける。和やかな雰囲気が流れる控え室。


だんだんと2人の幸せな雰囲気に満たされていく。



「……赤い糸ですよ。旦那様の、異能の運命の赤い糸。それが、私に奇跡を起こしたんです」



桜久耶はすっとぼけたが柚葉にはお見通しだった。赤い糸のことを思い出しながらふふっと笑う柚葉。


先程まで記憶を失っていたとは思えないほど柚葉は桜久耶に心を許していた。



「……そうだったのか。私の異能が……。柚葉には敵わないな。もう、1人にはさせない。悪かった。私の家の魔道具のせいで辛い思いさせてしまったな」



柚葉の笑顔を見て安心した桜久耶だったが自分の家に伝わる魔道具のせいでこうなったことを責めていた。


桜久耶は何度も何度も柚葉に謝る。



「そ、そんな……旦那様は悪くありません。その……魔道具?というのは知りませんが、おそらく優美や私の両親が勝手にやった事ですので」



柚葉は慌てて桜久耶の謝罪を止める。


今回の事件は朝雲家が悪いと柚葉は考えていた。桜久耶はきっと何も悪くない。