柚葉は優美に付きっきりで準備をし何とか開演にまで間に合った。なれない作業ばかりで戸惑ったが柚葉はテキパキ動く。



「お姉様。勝手に私のところから離れないでちょうだい。東條様から話しかけられても無視するようにしてね」


「かしこまりました」



優美の準備をしている間も柚葉に事あることにそう話しかける。柚葉は仕事をこなすのに精一杯で、正直他のことを気にかける余裕は無かった。



「さぁ、園遊会が始まるわ。そろそろ会場に入りましょう」



準備が終わり、控え室で待機していると。


母親が呼びに来て園遊会の会場である王宮の庭にみんな向かうことになった。



「あ、お姉様はここで待っていてね。朝雲家に無能がいるなんて高貴な方に知られたら恥ずかしいもの。終わった頃、迎えに来てちょうだい」



柚葉も母親たちの後に続こうとしたけど、それを優美に止められた。ここまで準備をしたのに、柚葉は待機と命令されたのだ。



(優美は余程私のことが嫌いなのね。なんで私をここまで嫌うのかしら……)


「かしこまりました。では園遊会が終わる頃、お迎えにあがります」


「わかったならよろしい。お母様、行きましょう」



柚葉は優美には逆らわず、大人しく控え室で待っていることにした。だけどやっぱりどこか虚しくて。


部屋に一人、ポツンと取り残された柚葉は。


何故か涙が自然に出てきて、気づいたら泣いていた。



(……あ、れ……。なんで私泣いてるのかしら。これはいつもの事なのに)



泣いていることに驚く柚葉。涙なんかしばらく流したことないのに、突然のことでどうしていいか分からなくなっていた。



「……旦那、様……」



止まらない涙を流しているとふと無意識に柚葉は桜久耶のことを求めた。


ポつりと呟いた言葉に自分もどうしたのだろうとはっと我に返る。



(……旦那様?私、結婚していないわよね。なのになんで無意識に旦那様なんて。しかも東條様の顔が一瞬で浮かんだわ)



桜久耶のことをまだ思い出せていない柚葉は困惑するばかり。だけどその時、ふと左手の小指に違和感を覚えた。


はっとして顔を上げると、小指には赤い糸が離さないと言わんばかりにきつく巻かれていた。


その瞬間、頭の中でパンッ!と何かが弾けたような感覚になり、今まで消えていた記憶が一瞬で戻った。