「ついたぞ。くれぐれも皇帝様やご子息様に粗相のないように。柚葉は優美と共に行動しなさい」


「かしこまりました」



しばらくして、無事に朝雲家は王宮にたどり着いた。車から降りるとまず先に父親からの最後の忠告を受ける柚葉。


柚葉はすぐに頭を下げ、優美の傍に着くことを命じられる。



「……私の仕事、邪魔しないでちょうだいよ。お母様からも言ってやって」


「そうね。柚葉は失敗しかしないんだから、今日くらい完璧に仕事をこなしなさい。失敗は絶対許しません」



周りに人が居ないことを確認した優美と母親は柚葉にきつく言い聞かせていた。父親は既にどこかへと行っていて、姿が見えない。


柚葉は頭を下げたまま2人の話を聞いていた。


ーーその時、柚葉はふとどこか懐かしい感じがして。ゆっくりと顔を上げる。



「……あっ」


「ちょっと、私たちの話を聞いてるの!?」



柚葉は顔をあげた瞬間、思わず声を出してしまった。そこにいたのは桜久耶と皇帝。つまり、柚葉の祖父もそこに立っていた。


その2人の姿を見て懐かしい気持ちが止まらなくなる。母親と優美はその2人の存在に気づいていない。


柚葉はその場で固まったように、動くことが出来なかった。



(……あの方、知ってるわ。私を……心から愛してくれた人だと思うの。確信はないけど、心のどこかであの二人を私は求めてる気がするの)



母親と優美の話は全く頭の中に入ってこない。変わりに柚葉は自分の記憶の一部を取り戻し始めていた。



「……まぁいいわ。とりあえず準備するから控え室向かうわよ。今日は優美が主役の日なんですから」



母親は話を辞めたかと思えば柚葉の腕を引っ張り、王宮の中へと連れていこうとする。


そんな様子も2人は見ていたが止めなかった。苦しそうな表情をし、やがて奥へと姿を消していく。


それを見て柚葉は胸の奥がぎゅっと苦しくなったが仕方ないと思い込んだ。



(きっと2人は私の姿を見て呆れたわね。こんな私に……あの2人が愛してくれていたなんて思えないもの。……というか、東條様の隣にいた優しそうな方は誰だったのかしら)



柚葉は桜久耶のことを少し思い出したが皇帝のことはまだ記憶の中から消えていた。


懐かしいという不確かな感情だけが柚葉の中に残り、心の中にモヤをかけていく。


そんな柚葉を置いていくように時間は進み、園遊会に向けて準備は着々と出来上がっていった。