今日までたくさんの準備をこなしてきた柚葉。柚葉にも昨夜、両親からいつもより上等な着物を渡された。



『明日は特別だ。朝雲家の名誉を守るため、お前にも少し綺麗なものを着てもらう。ただしこの着物を着るのは明日だけだぞ』



父親からそう忠告を受けながら、受け取った着物は綺麗な桜色の着物だった。それを見た瞬間、また柚葉は鋭い頭痛に襲われた。


どこかで見たことあるような懐かしいデザインだった。だが柚葉はやはり何も思い出せない。



「……この着物、私に似合うかしら」



着替えをしながら柚葉はポつりと呟いた。


どこかで着たような気がするけど柚葉は不安な気持ちが大きかった。



(それに、この前までよく姿を見ていた東條様、最近見ないわね。もしかして、今日の準備で忙しいのかしら)



何故か警戒している桜久耶のことをふと思い出す。夢に出てきたせいか桜久耶のことを忘れることが出来なかった。


ーー柚葉の記憶の糸が切れるまであと少し。縁切りバサミの効果は……恐ろしかった。



「柚葉ー!いい加減早くしなさい!今日は遅刻できないわよ!」



ぼんやりしながら朝の支度をしていると。


母親の怒鳴り声が聞こえてきて、柚葉は慌てて準備を終わらせた。緊張する気持ちを抑えながら、何とか優美の支度を手伝い、無事に出発する。


優美の支度の合間に柚葉は呼び出され、ある一人の呪術師に術をかけて貰っていた。



「……お姉様は幸せになっていけないのよ。私よりも先に幸せになるなんて……許せないんだから」



何をされたか分からない柚葉に向かって優美はニヤリと微笑みながら呟いた。


そんな優美は遊郭一美人な花魁と言われるのが納得出来てしまうほど、煌びやかな容姿をしていた。


キラキラと光るがどこか落ち着いた色の着物にいつもよりも濃いめの化粧。髪の毛も豪華にまとめられ、誰もが見惚れる美人がそこにいた。



「……わかっています」



柚葉は優美とのあまりにも違った容姿に落胆し、言っていることは分からないがなんとなく察する。



(私が優美より先に結婚して幸せになるなんてありえない。きっと優美は姉である私に縁談がこないか警戒してるのね)



何せ今日の園遊会は高貴な方が集まる場所。ここぞとばかりに色んな方から縁談の申し込みがあったりもするだろう。


優美は東條家との縁談も諦めていなかったが、ほかの縁談話にも少し興味が湧いていた。