優美はそのことを知っているのか不安げに聞いた。だけど柚葉はなんのことかさっぱり分からず首を傾げるばかり。



「大丈夫だ。柚葉は当日裏方に回ってもらう。2人に鉢合わせないよう、別の異能者に“姿隠れの術”をかけてもらうよう依頼済みだ。あとは当日まで問題が起こらなければいいのだが。優美はちゃんとあの道具は持っているだろうな?」


「もちろん。まだ私以外誰にも触れさせてないわ。お父様がそう言うなら当日は大丈夫そうね」



父親の話に優美は納得し、穏やかな笑顔を見せた。母親は皇帝に会えるということに興奮し、話をよく聞いていなかった。



(勝手に話が進んでるけど、私はどうしたらいいのかしら。……当日まで教えてもらえるわよね)



柚葉はそっと小さなため息をつきながら2人の会話を聞いていた。


その後も色々話はあったが柚葉の頭の中にほとんど入ってくることは無かった。


***


『柚葉……柚葉!柚葉のこと、いつまでも待ってるから。私たちの“運命”を信じよう。赤い糸を……信じよう』


「……うっ、だ、れ……」



数日後。


柚葉は眠っていると夢の中にまた桜久耶が現れた。桜久耶は必死に柚葉に手を伸ばそうとするが届かない。


たくさんの言葉をかけるけど柚葉にとってそれは恐怖でしか無かった。思い出せそうで思い出せない人物の夢を見て。


柚葉は冷や汗をかきながら、夢から覚めたのだった。



「……また、あの夢。あの方、確か東條様、だったかしら」



ぼんやりともやがかかったかのような頭で桜久耶のことを考える。だけど考えれば考えるほど頭が痛くなって。


結局いつも何も思い出せないまま、終わってしまう。



「まぁ、とりあえずいいわ。今日は大事な日よ。失敗は許されないんだから」



柚葉は桜久耶のことを考えるのをやめた。


独り言を呟き、気合いを入れる。今日は前父親の言っていた“園遊会”の日。話し合いの日からあっという間に時間がたち、当日を迎えた。


柚葉は色々準備するよう言われ、何度も何度も優美の持ち物や着物などの確認をした。


着物は園遊会で使うため、皇帝の前でも恥をかかない高級かつ優美の好きな派手なデザインを特注した。


小物も全て一流のお店から取寄せ、何とか優美の気に入るものとなった。


皇帝の前に出るのだから恥をかくことは許されない。ましてやご子息やその花嫁も同席する式なら尚更だ。