「……入れ」



中から父親の声が聞こえ、柚葉はそっと襖を開けた。すると中には既に優美と父親が座って待っていた。


柚葉は隅っこにちょこんといつものように座る。


母親は優美の隣に座り、家族会議をする時の体制になった。突然の収集に緊張していた柚葉だったが優美は何故か楽しそうで。


そのことに不思議に思う。



「……今日集まってもらったのは来週に行われる“縁結びの儀”の演目と当日の流れについての説明をするためだ」


「縁結びの儀……?」



柚葉は父親言葉を聞き返す。


どこかで聞いたことある行事名だと思ったが思い出せなかった。ここに来て柚葉は初めて聞いたと思い込んだ。



「そうだ。今年で皇帝様のご子息様が成人なされる。その成人の儀式の後、園遊会が開かれるのだ。その園遊会で、ご子息様たちの今後の良いご縁を祈るための儀式が行われる」



何も分かっていない柚葉に父親は淡々と説明した。柚葉のことを一番に毛嫌いしていた父親は一度も目を合わせようとしない。


父親は母親たちを責めるほど、柚葉の帰宅を拒んでいた。



「そんな中で、演目として優美がご子息様の前で舞を舞うことになった。皇帝様のご指名だ。女性は一番人気の花魁、男性は由緒正しき縁結び神社の跡取り息子……東條桜久耶に決まっている」


「やっと皇帝様をお目にかかれるのね!この儀式が上手く行けばあさぐも館はもっともっと有名になるわ!」



父親の後に母親が興奮気味に話し始める。あまりにも壮大な内容すぎて柚葉はついていくことに精一杯だった。



(……縁結びの儀……。どこかで聞いたことあるわね。でも一体どこで……。というか、ここでも東條桜久耶という名前が出てくるのね)



柚葉は現実逃避するように別のことを考えていた。自分にはどうしても手の届かない世界だと思ってしまう。


それなのになぜ柚葉を呼んだのだろうとそれがずっと不思議で仕方なかった。



「本番まで時間がない。柚葉はとりあえず優美の世話係として身の回りの管理をしろ。私たちは挨拶回りやらをしなければならない」


「……お姉様が儀式に参加して大丈夫なの?また東條家に邪魔されない?皇帝様にも目をつけられないかしら」



指示を出す父親を横目に優美は珍しく不安そうに尋ねた。皇帝の前だと緊張はするだろう。


それに……柚葉は皇帝の孫に当たる人物。


もし柚葉に気づいたらこの朝雲家が何をされるのか分からない。