常連客もニヤニヤと楽しそうに柚葉を見て笑う。その笑顔が気持ち悪くて柚葉は思わず苦笑い。



(これはいつもの事。これはいつもの事……)



気を間際らすためにそう心の中で呟きながら柚葉はこの日の仕事をこなしていった。


***


『柚葉……。記憶がなくても、お前を愛しているからな』



ふわふわ、ゆらゆら。


仕事が終わって気づいたら寝ていた柚葉。夢の中で昨日会った桜久耶と再会していた。



(この方、昨日も私を心配していたわ。本当に何なのかしら……)



夢の中でははっきりと桜久耶の姿が見えていて、目があった。その瞬間にドキッと心臓が一瞬高鳴る。


だけど。


やっぱり、誰だか思い出せなくて。柚葉は頭を抱えるばかりだった。どうしたら思い出せるのかそんなことばかり考える。



『ごめんなさい……貴方のこと、どうしても分からないのです。私は……貴方といったいどういう関係でしたか?』


『……そうか。焦る気持ちはわかるが私は無理に思い出させようとはしない。柚葉が壊れるのが一番怖いからな。また、柚葉に会いに来るよ』



柚葉は思い切って桜久耶に自分たちの関係を聞いたのに。それに答えることはなく、桜久耶はすうっと消えていった。


あっと思った時にはもう遅くて。


夢の中で柚葉は1人、取り残された。



(思い出せそうで思い出せない……。この苦しい気持ちは何なのかしら。私はどうしたら、いいのかしら……)



胸の中に苦しく、だけど少し……ほんの少しだけ幸せな気持ちを残して柚葉はゆっくりと目を覚ました。



「……夢、か。って、もう昼なのね」



柚葉は自分の部屋で寝落ちしていた。


窓から太陽の光が注がれ、昼特有の暖かな日差しが部屋を包み込んだ。



「柚葉、起きたかしら。ちょっと今から大事な話があるから居間に来てちょうだい。朝雲家に関わる大事な話よ」


「かしこまりました。ただいま向かいます」



柚葉が起きて数分後。


母親が柚葉を呼んだ。急いでるようなそんな様子で柚葉を急かす。


それを聞いて素直に居間に向かう柚葉は。


まだ眠気が残っている頭でぼんやりと桜久耶のことを考えていた。



「……失礼します。柚葉です」



居間につき、襖の前で名前を名乗る。母親も一緒にいたが柚葉は名前を名乗ってからでは入れないという謎のルールがあった。