戸惑う柚葉に珍しく母親が優しげに戻るよう言った。


そのことにも柚葉は驚いたがこの場にいたくないと思ったので部屋に行く。



「お、おい!柚葉……!本当に、私が分からないのか?」



柚葉が部屋に戻る途中、桜久耶が声をかけたけど聞こえない振りをして、早歩きで戻った。



(……いったいなんだったのかしら。私はあの方を知らないはずなのにあの方は私を知っているような素振りだったわね)



心に違和感を覚えながらも柚葉は決して振り返ることはしなかった。その後も何やら三人は揉めていたがいつしか声が聞こえなくなる。



「柚葉。あの人が何か言っても本気にしてはダメよ。あなたを騙そうとしてる人なんだから、警戒しときなさい」


「そうよ。お姉様は騙されやすいんだから。まぁこんな不細工に話しかける人が一番おかしいのだけど」



柚葉が部屋で休んでいると。


桜久耶の相手を終えた2人が戻ってきた。わざわざ部屋に来て嫌味たっぷりにそう言い放つ。



「……かしこまりました。私も気をつけます。ご忠告ありがとうございます」



柚葉は事が大きくならないようにと素直に頭を下げる。


実際は桜久耶のことが心に引っかかっていたのだが、2人のことを信じたのだ。



「そうね。それが一番だわ。それじゃあお店を開けますよ。仕事をまず一番に考えなさいね」



母親はそんな柚葉を見てニヤリと笑うと。


あさぐも館を開けた。今日も優美のおかげでたくさんのお客様が入り、賑やかさが増すこの館。



「あれ?お姉さん戻ってきたの?東條家に嫁いだんじゃないの?」



優美の手伝いを柚葉がしている時。


1人の常連客が柚葉の姿を見て不思議そうに尋ねてきた。



(またこの話……。今日は何回目だろう。私が東條家に嫁いだって……なんの話かしら。私には縁談話はないのよ)


「お姉様が自分から戻ってきたんですよ。東條家の嫁は自分には荷が重いって。全く、これだから無能なお姉様は役たたずですよねぇ」



何回も同じ話をされ、柚葉はますます不審に思う。だけどその度に優美が事実とは違うことを話していた。


柚葉の記憶がないことをいいことに言いたい放題。


そんな優美の言葉をお客様は信じ込んだ。



「そうだったの。確かに東條家は異能がないとちょっとキツイよなぁ〜。優美ちゃんなら完璧に東條家の嫁さんこなせそうだけど」