朱里は泣きそうな表情になりながらも早坂の言われた通りに帝都に探しに行き、夜遅くに戻ってきた。



「どうだった?」


「申し訳ございません。見つからなかったです」


「そう……。桜久耶様はだいたい目星はつけてるそうよ。さっき心当たりを探しに行かれたわ。今日はもう遅いから休みなさい」



落ち込みながら朱里は早坂に報告する。


そんな朱里を見て、優しく微笑む早坂。東條家ではまだ混乱していたが桜久耶が帰ってきた事で状況を理解しつつあった。


朱里は頭を下げて自分の部屋に戻ろうとした。


ーーだけど。



「……朱里。ちょっといい?」



仲の良い使用人の1人に引き止められた。


朱里は驚きながらも立ち止まる。



「どうしたの?」


「私も色々柚葉様を探していたんだけど、それでこの屋敷中も一応見たのね。その時、蔵に違和感覚えて。覗いたら……。“縁切りバサミ”の魔道具がなかったのよ」


「……え?それ、本当!?」



朱里は話を聞いて、サーッと血の気が引いていくのを感じた。屋敷には柚葉がいないとわかっていても念の為探していたそう。


その話の中の“縁切りバサミ”は東條家に伝わる大事な道具。


縁結び神社ならではの道具で、それを使えばどんな人の縁も切れるという最強で最悪な魔道具だった。


異能持ちの人しか使えず、あまりにも危険な代物なので大事な行事で使わない時は蔵に頑丈に保管していたのだが。


それが、なくなったということは。


誰かが持ち去ったという事になる。


縁を切られるとその人との記憶が無くなり、その人と出会う前の生活に戻る。



「……もしかして……!柚葉様、縁切りバサミにやられてしまって記憶を無くしたりしてないわよね……」



朱里に嫌な予感が流れ始める。


こんな大事な道具が無くなればすぐに気づきそうだが蔵にはあまり人が近寄らない。


朱里もこの話を聞かなければま気づかないままだっただろう。



「分からない。ただ、いつから無くなったのか……。私、桜久耶様に報告してくるわ。先に部屋戻ってて」


「あっ……ちょっと、待って……!」



朱里が黙り込んでいると、そのまま桜久耶の元へと向かってしまった。慌てて引き止めたがその場にポツンと取り残された。



「桜久耶様の心当たりって、まさか……」



しばらく1人で考え込み、朱里はひとつの心当たりが思い浮かんだ。


朱里は深呼吸するとあとを追いかけるようにして走り出したのだった。