母親は淡々と柚葉に指示を出したあと、部屋から出て行った。素直に聞いている柚葉を気味悪がりながら、視線を逸らす。



「……さて。仕事、始めましょうか」



そんな母親を不思議に思いながらも柚葉はテキパキと動き、仕事を始めた。


本当に今までの記憶がなくなり、なんの違和感もなく優美と母親の言いなりになる柚葉を見て、ほかの妓女たちは引いていた。



「あの話は本当だったのね」


「優美様、いったい柚葉様に何をしたのかしら」



ヒソヒソと話をしながら柚葉の行方を見守る妓女たち。


そんな視線を感じながら、柚葉は優美の仕事の手伝いをしながら、あさぐも館の妓女兼使用人として。


働いていた。


***


一方その頃、東條家では。



「桜久耶様!申し訳ございません。少し目を離した隙に柚葉様がどこかへ連れていかれてしまいました!」



朱里たちが東條家に戻り、女中頭に報告したり桜久耶に報告したりとバタバタしていた。


責任を感じている朱里は真っ青な顔のまま桜久耶に電話で事の顛末を話終える。



『……わかった。お前たちは引き続き柚葉のことを探してくれ。私は心当たりがあるからそこに行ってみる。……後、皇帝様にも報告してくる』



桜久耶は思いのほか冷静だった。


朱里に指示を出し、自分も仕事を切り上げ柚葉を探しに行くと話した。


柚葉が連れ去られたことを皇帝に知られたらどんな仕打ちが待ってるか分からない。しかし報告しないわけにも行かない。


桜久耶は悩むことなく柚葉のこの状況を報告することにした。



「承知しました。では、私たちは、もう一度帝都内を探します。柚葉様が見つかり次第、ご連絡いたします。本当に申し訳ございませんでした」


『謝るのは柚葉が見つかってからでいい。今は柚葉を見つけることに専念しろ。私ももう少しでそっちに行くから』



桜久耶はそう話して電話を切った。



「桜久耶様はなんて?」


「あっ……。えっと、こちらに一度戻ってから心当たりを探すと仰っていました。後皇帝様にもこのことを報告する、と」



電話の前で朱里が項垂れていると。


女中頭の早坂が声をかける。



「そう。わかったわ。とりあえずあなたもみんなと一緒に帝都に探しに出て頂戴。私も色々探ってみる。落ち込むのはその後」


「かしこまりました」



早坂はテキパキと指示を出すと、その場を離れる。