狭い路地裏から優美と柚葉が共に出てくる。その様子は普通の姉妹のように見えているのだろう。


だが実際には違う。


優美は本当は義理の妹で柚葉のことを姉なんて思っていない。家族として扱っていない。


いつもの柚葉なら助けを求め、優美の隣を歩くのも嫌がるはずなのだが、今は……なんの疑問も持たず隣を歩いていた。



「……柚葉様!柚葉様!どこにいらっしゃいますか!」



遠くで、朱里たちの騒ぐ声が聞こえた。だけどその声は柚葉に届くはずもなく。


そのまま柚葉は帝都の街から姿を消したのだった。


***


「ただいま戻りました」



しばらく歩き、2人は朝雲家に帰っていた。優美は生き生きとしながら、母親を探している。


ほかの妓女たちも起きていて、後ろにいる柚葉を見てみんな驚いた。



「……なぜ、柚葉様がここに?」


「さぁ……」



みんな不思議に思ったが誰も優美に聞くことは出来なかった。柚葉はそのことに気付かず、そのまま自分の部屋に戻り、いつもの着物に着替えた。


今の時間は夕方。


遊郭の街はこれから起き始め、みな仕事を始める時間。


柚葉は幼い頃から仕事をしていたので本能的に動いていた。記憶を無くしても、朝雲家にいることは不思議でないのだから。



「……あら、なんだか辛気臭いと思ったら、使えない妓女が一人、戻ってきたようね。優美の話は本当だったのね」



柚葉が部屋で準備をしていると。


義理の母親が覗きに来ていた。柚葉が本当の母親だと思っていた人は実は義理の母親だったと聞かされていた。


……だけど、そのこともすっかり忘れていた柚葉は。


なんの疑いもなく、頭を下げた。



「お母様。今から仕事に参ります。遅くなって、申し訳ございません」


「……へぇ。あの魔道具は本当に効力あったのね。これでもう、私たちの思い通りだわ」



母親もそんな柚葉を見てニヤリと楽しそうに笑った。


柚葉はもう桜久耶のことなど記憶の中から消し去られていた。桜久耶と婚約する前の生活まで、記憶がなくなり、柚葉はまたこの朝雲家に戻ってきたのだ。


優美の誘拐と見せかけて、柚葉自身が朝雲家に戻るように仕向けていたのだ。



「それじゃあ優美の支度を手伝いなさい。それから、別の妓女たちの準備も手伝うこと。わかった?」


「……はい。かしこまりました」