「お姉様、お久しぶりですね。朝雲家を出てから、まぁ昼間からこんな遊んで」


「……ゆ、優美……なん、でここに」



倒れそうになる身体の体制を何とか整え、柚葉は顔を上げる。


それと同時に優美の姿が見え、以前のように嫌味たっぷりに柚葉を見下していた。突然の出来事に何も考えられない柚葉。



「軽々しく私の名前を言わないでちょうだい。……まぁ、いいわ。今日はお姉様に話があって来たの」



久しぶりに優美の姿を見た柚葉は何も出来ずただその場で固まることしかできない。



(……なんで優美がここに?それに私に話っていったい何かしら。それに、西園寺さんたち今頃心配してるわよね。この状況、どうしたらいいのかしら)



柚葉の頭の中は不安でいっぱいだった。


優美と一緒にいる時はいつも良くないことばかり起きる。


今回の出来事は予想できなくて、まんまと優美の作戦に引っかかってしまった。



「お姉様。お話というのはね、東條家の桜久耶様と別れて欲しいという話なの。あなたなら自分の身分をおわかりでしょう?私と桜久耶様の婚約の方がふさわしいって」



優美はニヤニヤと笑いながら柚葉に向かって言い放った。まるで呪文を唱えるように、柚葉の目の前ではっきりと。


優美はまだ桜久耶との婚約を諦めていなかった。どうしても柚葉との婚約が許せなくて、ずっと探し回っていたのだ。



「……東條家?……桜久耶様……。って、いったい誰の事?」



だけど次の瞬間。


柚葉が聞いたのは、桜久耶が誰だかわかっていないような質問だった。そのことに気づいた優美はニヤリと笑うと。


すっと着物の袖から、“ハサミのようななにか”を取り出し、柚葉の目の前で刃物を見せる。



「……優美?なんの話をしているの?それに、その“ハサミ”は一体?」


「なんでもないわ。これで用事がすんだから。さぁ、お姉様。私たちの住む家に帰りましょう」



優美は微笑みながら、手に持っていたハサミを一回、ジョキン!と切る真似をして、また着物の袖の中に戻した。


柚葉は不思議そうに首を傾げるが優美の後ろをついて行こうと立ち上がる。



「そうね。お母様も待っているでしょう」


「ええ。お姉様の帰りを待っているわよ」



まるで全ての“記憶”が無くなったかのように振る舞う柚葉。その姿を見てニヤニヤが止まらない優美は。


心の底から、この状況を楽しみ、喜んでいた。