キリッとした瞳に優しそうな口元。


見れば見るほど美しい青年で、柚葉は思わず見とれてしまった。



(こんな方が両親になんの用事かしら?)



誰にも会いたくなくてここに逃げてきたはずなのに。気づいたら、桜久耶のことを見つめている柚葉。



「あの……。なんで私に話しかけたんですか?」



両親の元へ案内する途中で、ほとんど無意識に聞いていた質問。あの噴水広場にいた理由も気になるけど……。


どうして柚葉を見つけて、話しかけたのか分からなかった。柚葉を見れば誰もが避けていくこの街の人々。


両親でさえ柚葉を嫌がり、煙たがる。



「……気づいたら貴女の傍にいて、話しかけてましたね。あまりにも儚くて、今にも消えてしまいそうな貴女を見て放っておけなかったんです」



どうせ答えてくれないだろうな……と思いながらぼんやり歩いていたが思いの外しっかりと理由を答えてくれた。


信じられないような答えに目をぱちくりさせる柚葉。そんなこと言われたことなかった柚葉はなんて答えたらいいかわからなくて。


黙り込んでしまう。



「そう、ですか……」



静かな夜の庭に響くのは桜久耶の声と柚葉の声だけ。


息遣いも聞こえそうな夜の闇で一緒に歩いているのが不思議で仕方なかった。


こんな方がいたら優美が放って置かないよな……なんてことを思いながら柚葉は歩く。


最初から本館に行けばよかったのでは?と心のどこかで思っていた柚葉だったが、この時間が続けばいいなとふと思う。



「着きました。ここが本館です。この中に両親はいると思うので」


「え?貴女は中に入らないのですか?」


「……」



心底驚いた、という表情をされて柚葉は少し困った。



(この中に入ってもどうせ私は居ない存在として扱われるし……。一緒に入っていったら、この方のご迷惑になるわよね)



一緒に入るという選択肢は柚葉にはなかった。桜久耶はじっと柚葉を見つめるが、逃げるようにして頭を下げる。



「申し訳ございません。私は別の用事がありますので、ここで失礼致します」


「あ、ちょっと……!」



失礼な態度だと分かりきっていても柚葉にはこうするしかなかった。


一緒に中に入ればまた優美に嫌味を言われ、東篠様も嫌な思いをさせてしまう。柚葉は自分といること自体が迷惑だと考え、自分から離れていった。