桜久耶は不思議に思いながら尋ねた。


皇帝の家系は何千年も前からこの国の頂点に立っていた。


そんな歴史の長い皇帝の家系からそのような話があるとは桜久耶は何も知らなかった。



(柚葉にはやはり2人から異能を引き継いだのか?父親は縁結びの異能を持っていた。母親は力が開花していなかっただけで秘めていたのでは?)


「そうだ。その良い暗示というのは……その力のない子供が生まれた時代は戦争がほとんどなく、みんな平和な暮らしができるという予知。自分には力がないから、他の力がある者に予言を残し、予知夢で見てもらうというものだ」


「……戦争がほとんどない……皆平和な暮らしができる……。本当にそのような予知があるのですか?」



皇帝に言われ、過去を遡る。


確かにここ十数年は大きな争いはなく、新たな文化も取り入れみんな楽しそうに暮らしていた。


言われてみればいくつか心当たりがあるがどうも納得出来ない桜久耶は。


皇帝に疑いの目を向けた。



(皇帝様の話が本当ならそれは信じられない。だってみんなの中に柚葉はいなかった。柚葉は苦しい日々を送っていた。なのに平和な暮らし?馬鹿馬鹿しい)



桜久耶は心の中で毒づいた。


実の娘がそのようなものを予言したとしても、誰も信じないだろう。



「信じられないという気持ちはわかる。だが確かに私は記憶の奥底で華世が幼い頃そう予言し、私は数十年先の平和を予知できた。だが、なんでかそれを忘れていたのだ」



皇帝は予知していた。


娘に言われてから今後の未来のことを。


しかし、それを今まで忘れていた。


……それは、一体なぜだ?



「それでは、柚葉様の異能はどうなるのです?柚葉様は現に異能の力は開花してません。やはりそうなると柚葉様も母親のように予言できるのですか?」


「……いや、柚葉はそういう力はないだろう。父親が縁結びの異能を持っていたからな。その縁結びの力は強いらしい。なにか自分に“運命”を感じれば開花するかもしれない」



(運命を感じれば……か。だとしたら、柚葉は私の運命の人ではないのかもな。初対面で話した時、困っていたからな)



桜久耶の言葉を否定する皇帝は、どこか寂しげな目をしていた。


一通り話を終えた2人はお互いぼんやりと一点を見つめた。変な空気が部屋の中に流れ始め、緊張の糸がピンと張り詰める。