「貴方々がなんと言おうとこれはもう決定したこと。縁談話を変えてしまったことは謝罪する。その詫びとして結納金は気持ち多めにだそう。しかし、貴方々とはもうこれきり。縁を切らせていただきます」



優美と両親の目を見てはっきりと答えた桜久耶には迷いはなかった。


その言葉を聞いて朝雲家は何も言えなくなっていた。東條家には全てお見通しだといいことがわかったのだろう。



「……少し、考えさせてくれ。本人にも話をする。時間をくれないか?」


「わかった。だが長くは待たぬ。それを頭の中に入れておいてくれ」



桜久耶は容赦なく朝雲家に言葉を吐き捨てた後。その館を後にした。


その言葉を聞いて優美や母親は絶望したような表情になり、父親は頭を抱えた。


たった一人の男が放った一言で。


朝雲家を地獄のような空気にしていったのだった。


***


翌日。


桜久耶は昨日の報告をしに王宮へと訪れた。



「……そうか。ありがとう、桜久耶。これで朝雲家も懲りて柚葉を引き渡すだろう」



皇帝も桜久耶の報告を聞いて安心した様子で笑った。



「はい。柚葉様が私の婚約を断らなければこのまま話は進めることができます。……それで、皇帝様。おひとつ、柚葉様のことについて聞きたいことがあるのですが」


「なんだ、言ってみろ」



桜久耶はずつと気になっていたことを皇帝に聞いてみることにした。それは柚葉の異能の力について。


柚葉の異能については調べても調べてもどうしても分からなかった。


ついでに父親のことも探ったが情報は一切入ってこない。皇帝から聞いた話だけの情報しかなかった。


柚葉の母親については皇帝からの説明と過去の情報から色々引き出せたのだけど。



「……ああ、まだ話していなかったな。柚葉は異能はない子だとして扱われている。だがそれは違うんだ」



桜久耶の質問にぽつりぽつりと話し出す皇帝。



「異能……母親も受け継がなかったのですよね?」


「そうだ。娘は何も受け継がず家を追い出されたと話したのを覚えているだろう?しかし、私が色々過去の異能について調べてみた。そうしたら、極稀に異能を持たずに生まれる子供が私の家系に出るらしい」



皇帝の異能の力は莫大の強さを誇っていた。誰もが欲しがる力を持つ家系に生まれながら何も受け継がなかった娘。



「だがな、それは悪い意味の暗示ではなく、むしろ良い暗示を示すものだった」


「……良い暗示?」