「……は?東條様、今、なんと仰いました?」
意を決して伝えた縁談の内容。きっとこの中の誰もが優美のことだろうと思ったはず。
だけど違った。
それにいち早く気づいたのは優美だった。
「ですから、私は朝雲柚葉様との縁談を希望します。……いますよね?もう1人の朝雲家の妓女……朝雲柚葉。貴方たちの、義理の娘ですよ」
桜久耶の言葉を聞いて一気に不機嫌になる優美だったが、その上に容赦なく桜久耶が言葉を被せた。
それを聞いて朝雲家の人間は怒りにも似たような表情になる。
(私のたった一言でこんなにも表情が変わるとは。朝雲家の人間は面白い)
桜久耶は冷静だった。
最初は反対していた父親も皇帝から話を聞いて何も言わなくなり今の桜久耶は無敵状態だった。
朝雲家に何をされても皇帝が後ろ盾してくれている。その事実があるだけでこの縁談話は断られることは無い。
……柚葉からの断りさえなければの話だが。
「義理の、ですか。私どもにそのような娘はいませんよ。東條様、誰と間違っているかわかりませんが私たちの娘は優美だけです」
「……そうですよ。柚葉なんて人……この家にはいませんよ」
この期に及んで両親は柚葉の存在を何とか消そうとしてきた。心無い言葉に桜久耶は内心いらだちを隠せない。
自分の愛する人の悪口を言われ、平常心でいられるだろうか。
……いや、いられるわけがない。
「それは嘘だな。私は柚葉と話をした。柚葉は名前は名乗らなかったが私が貴方達を探している時にたしかに“私の両親なら中にいると思います”そう、言っていた」
柚葉自身から名前を聞くことはできなかったが少ない会話の中で核心たる事実を聞き出した。
桜久耶が両親の名前を伝えたあと、柚葉は自分の親だと話してくれた。これが柚葉の朝雲家の人間だという証拠になった。
「……なっ。で、ですが最初から縁談の話は優美にと言っていたではないですか!途中からなんの繋がりもない小娘に話がいくのです!」
母親の怒りは最もだ。
たしかに最初は優美にと父親が話を進めていた。急に路線を変えるなんて失礼過ぎると思うがこの話は例外だ。
皇帝からの命令や父親の了承、そして何より桜久耶の気持ちは柚葉の方に向いていた。それらが全て揃った今。
朝雲優美にはなんの用事もない。
ただ、桜久耶は柚葉を助け出したい。その一心で行動していた。



