だけど桜久耶は皇帝の話の内容は全く頭の中に入らなかった。写真を見つめたまま、固まっていた。


だって、その写真に映っている女性を桜久耶は知っていたから。何故か桜久耶はその写真から目が離せず、じっと黙って話を聞いていた。



「お前が忙しいのはわかっている。だがこの子をどうしても朝雲家から引き離したくて。私から動くことが出来ればいいのだが立場上それは出来ない。このことは桜久耶にしか頼めないのだ。どうか、よろしく頼む」



皇帝が頭を下げて桜久耶にお願いした。


国の頂点に立つ皇帝が頭を下げてお願いするというのは命令されているというより、ほとんど個人の事が多い。


よほど孫の存在が大切なのだろう。


娘の負い目もあってか皇帝は必死だった。



「……かしこまりました。しかし……ひとつ条件があります」


「なんだ、言ってみろ」



桜久耶の了承を聞いてほっとした皇帝はその条件を軽い気持ちで聞いてしまった。桜久耶はその気持ちを知りながら、条件を伝えた。



「私は……朝雲柚葉様を嫁に迎えたいと考えています。私はこの娘と会ったことがあります。実は朝雲家との縁談話がありまして。それを利用すれば、混乱なく柚葉様を助け出すことができると思います」



皇帝に出す条件にしては容赦ないものだった。


やっとの思いで孫の助けを桜久耶に頼んだのだがその桜久耶に嫁に出せと言われた。


最愛の孫が初めて顔合わせる前にほかの男にとられるのは皇帝にとっても屈辱。みんなそう思うに違いない。


だが、桜久耶はどんな縁談が来ても断る男だった。その男が柚葉を嫁にしたいと言っている。


それに皇帝と東條家は切っても切れぬ縁があった。



「そうだったのか。……悔しいがお前が嫁に貰ってくれたら、私も文句言えまい。その条件、承知した。孫娘を……よろしく頼むぞ」



皇帝は観念したようにため息を着くと笑いながら桜久耶と硬い握手を交わした。


それは桜久耶の条件を同意したという意思になる。



「ありがとうございます。必ず、柚葉様を無事に助け出します」



こうして、桜久耶と皇帝の約束が交わされた。


そこから柚葉を助け出すためにたくさんの策を練り、柚葉の情報を聞き出した。柚葉のことを知れば知るほど不思議な人だと思った。


柚葉は異能は受け継いでいないはず。


なのに近くにいるだけで私の異能……『縁結び』が反応して赤い糸が出てしまいそうになる。