(どうやったらここから抜け出せるのか……。他に抜け道はないのか?)



辺りを見渡すがそこには自分のことしか考えてない妓女と客ばかり。ため息をつきながら桜久耶は視線を動かしていると。


ある、1人の女性に目が止まった。



(あれ?あの女はなぜあそこにいる?しかもほかの妓女と違って着物も薄汚い。本人も心做しか痩せて、どこか虚ろな……)



ほかの妓女や女には目が止まらない桜久耶だったがどうしてもその女性は目が離せなかった。


それが桜久耶が柚葉を最初に見た瞬間。



「なぁ、あそこに座っている女はなんだ?」



気づいたら優美に尋ねていた。



「ああ、あの妓女……いや、下女ですか。あれは使用人です。そんなことより、もっと楽しいことしましょうよ」



桜久耶の質問に一瞬嫌な表情をする優美。明らかに彼女を毛嫌っているのは誰が見ても一目瞭然。


桜久耶はその様子に引っ掛かりを覚えた。


優美の話を無視して彼女を見続けていると部屋を出ていった。


それが気になり、あとを追いかけたが時間切れでその日は話しかけることすら出来なかった。


心の中に彼女を残したまま日にちだけが過ぎ、東條家と朝雲家の婚約の話がトントン拍子に進んでいた。


そんな中、桜久耶は皇帝に呼び出され、とある女性の無事の確認とこの王宮に連れてきて欲しいと頼まれた。


その仕事内容は桜久耶の本業ではないのだが皇帝と東條家は深い繋がりがありどうしても断れず。桜久耶はその依頼を了承する。



「その女性というのは私の孫でな。この娘なんだが……。名前は朝雲柚葉と言う」


「……え?お孫様、ですか?」



皇帝の話に桜久耶は驚いた。皇帝の孫はもう成人になる歳の子息がいて、数日後には婚約者を決める縁結びの儀という催しがある。


他には孫もいないと聞いていたので、それはそれは桜久耶は驚いた。


皇帝はひとつの冊子を桜久耶の前に出し、それをめくった。


中には1枚の写真が入っていて、その写真を見た桜久耶はさらに驚く。



「この方……、ですか?」


「そうだ。少し痩せているが可愛くて綺麗だろう?私の娘にそっくりだ。訳あって今は朝雲家にいるが……近々この王宮に迎えたいと考えていてな。柚葉は今年で18だ。私の孫息子と二歳離れている」



皇帝は驚く桜久耶をよそに愛おしそうに写真を見つめ、そう説明した。