そのまま流れに身を任せる柚葉だったがやがて意識を取り戻すかのようにゆっくりと目を覚ました。



「……なんだったのかしら、あの夢は……」



重たい身体を起こしながらそっと隣を見ると。そこには思いもよらぬ光景が目に飛び込んできて。


柚葉は言葉を失った。



(なんでここに……隣で旦那様が寝ているの?)



布団の隣で気持ちよさそうに眠る桜久耶の姿があった。いつもは別々の部屋で寝る2人だったので柚葉が驚くのも無理はない。


昨日は帰ってからなんだか気まずい空気になり、一言も話すことなく眠ったはずだったのだが……。



「……んっ、柚葉……、起きたか。おはよう」



この状況に混乱していると桜久耶が眠そうに目を擦りながら起きた。そして今柚葉は気づいたのだが、左手をぎゅっと握っている。


まるで離さないと言わんばかりに。



「お、おはようございます、旦那様。なぜここで寝ているのでしょうか……?」



寝ぼけなまこの桜久耶に恐る恐る聞いてみた。柚葉はまだ桜久耶と話すことに気まずさを感じていた。



「それは……私がただ柚葉の隣で寝ていたかったという理由だ。その理由だけじゃ、傍にいてはダメか?」


「い、いえ……。別に私は……。きゃ!旦那様!?」



柚葉は目を逸らしながら話していたが突然桜久耶が抱きしめた。突然の出来事で思わずよろけたが何とか桜久耶を支える。



「柚葉……愛してる。私は、柚葉に運命を感じた。柚葉を皇帝様に会わせるために王宮に連れていったのは本当だが……。それは柚葉を守るためでもある」


「旦那様……?」



桜久耶の温もりを感じながら話を聞く柚葉。話の内容は昨日のことだと理解していた柚葉だったが、少し戸惑った。


昨日は衝撃的な事実を知った柚葉だったがまだ桜久耶の本当の姿、そして柚葉の異能についてまだ話されていない。


心の中にモヤモヤが残っていた柚葉だが桜久耶の言葉ひとつひとつを受け止めた。



「わかっています。昨日は少し戸惑っていただけで旦那様を疑った訳ではありません。旦那様の愛は……私が一番感じていますから」



東條家に来て幸せな時間を過ごした柚葉は、桜久耶から与えられた“愛”というものをいつの間にか信じていた。


桜久耶からだけでは無い。


東條家のみんなから愛され始めた柚葉は、もう“愛を知らない女性”ではなかった。



「……柚葉。ありがとう、ありがとう」


「こちらこそ、こんな私を愛してくださってありがとうございます。私……どんな運命が待ち受けていようとも、旦那様を信じます」



これが、今柚葉の思う精一杯の未来の向き合い方。


どんな試練があるのか分からない。


だけど……この先の出来事も桜久耶を信じようと柚葉は思った。