時々自分の顔を見てそう思う。


噴水広場の池に顔を覗かせると反射で自分の顔が写った。痩せこけた頬、水仕事をしているせいで赤切れだらけの手、ボサボサの髪の毛。


どこをとっても優美とは似ても似つかない見た目をしていた。



「あの、すみません」



ここに来てどれくらいたっただろうか。噴水広場の池の中を見つめているとふと誰かに声をかけられた。



「……誰?」



こんな私に声をかけるのはお母様か優美くらいだろうと顔を上げたけど。そこには見たこともない青年がたっていた。


思わず反射で聞いてしまう。



(こんな方、あの宴会の中にいたかしら……?とても美しい人……)



声に出して言わなかったが柚葉のその人の第一印象は“美しい人”だった。不思議な雰囲気をまとい、じっと柚葉を見つめてる。



「すみません。あの、朝雲華さんと大河さんはどこにいらっしゃるか分かりますか?」



問いには答えず淡々と自分の用事を話すその方は、柚葉にとって少し冷たくて人に感心が無さそうだと思ってしまった。


初対面の人だといつもこんな態度を取られる柚葉。


慣れているといえば慣れてるが。



「……私の両親なら、中にいると思います。ご案内しましょうか?」



生き生きと返事する気にはなれなくて、柚葉は心無い声で答えた。華さんと大河さんと言われ、両親だとわかった。


だけど、もう何もかもがどうでもよくなって。


全てを、投げ出したくなった。



「そうですか。じゃあ案内お願いします」


「……え?」



柚葉と歩きたくないだろうと断られること前提で提案したはずなのに。彼はあっさりと柚葉の提案を受け入れた。



「ん?案内してくださるんですよね?ご迷惑でなければお願いします」



予想外の返事に戸惑う柚葉。


そんな柚葉に先程の表情とは打って変わって優しく微笑む彼はそっと手を伸ばす。



「わ、私で良ければ……ひゃ!」



その手を不思議に思いながら取ると勢いよく柚葉を立ち上がらせる。こんなことは生まれて初めてだ。


驚く柚葉とそれを微笑みながら眺める不思議な彼。



「申し遅れました。私の名前は東篠桜久耶です。以後お見知りおきを」


「えっと……よ、よろしくお願いします」



戸惑いながらも頭を下げる柚葉。


柚葉は顔を上げ、そっと彼……東篠桜久耶のことを見あげた。桜久耶は肩まで伸びた金色の髪を無造作に下ろしていた。