すると皇帝はどこか懐かしそうな表情で柚葉を見ていた。



「……桜久耶。本当に柚葉なんだな。ここに連れてきてくれて……ありがとう」


「いえ。とんでもないです。ここに来てくれたのは妻の意思なので」



混乱する柚葉の前でさらに訳の分からない会話を繰り広げる2人。それについていけない柚葉はオロオロしていた。



「あ、あの……。一体、どういうことですか?」


「説明せずにここに連れてきてすまなかった。柚葉をここに連れてきた本当の理由を今から話す」



答えを求めるように桜久耶に縋る柚葉。


おかしな雰囲気が流れ始め、ただ事ではないと柚葉は悟った。



(こ、この雰囲気はなんなの……?皇帝様はなんで私を見て懐かしんでるの?分からない……分からないよ、旦那様)


「柚葉。落ち着いて聞いてくれ。柚葉は皇帝様の……孫に当たる御方だ」


「……え?それって……」



桜久耶から衝撃的な事実を聞かされたあと。柚葉の頭の中で何かが弾けたようなそんな感覚に陥った。


状況を理解しようとすればするほど混乱して上手く整理することができない。柚葉は皇帝と桜久耶の顔を交互に見た。


だけどそれでも分からなくて。呼吸も浅くなる。



「柚葉。迎えに行くのが遅くなって申し訳なかった。朝雲家にいるのがわかっていてもどうしても引き取ることが出来なかった。だからこうして桜久耶にお願いしたんだ。ひと目でいいから柚葉に会いたいと」



皇帝の言葉が……柚葉にとってとても残酷に聞こえた。幸せな結婚生活を送っていたはずの柚葉。


それがなんだか一気に裏切られた、そんな気分になって。まるで生きた心地がしなかった。



「……旦那様、皇帝様のお言葉は……本当なのですか?」



混乱する柚葉はそう尋ねるので精一杯だった。それがもし本当だとして、今までの結婚生活は全部嘘だったのかと疑いそうになる柚葉。



(もし……これが本当なら、この結婚は皇帝様にお会いするための偽装結婚だと認めているようなもの。旦那様のあの愛も、言葉も全て嘘だったの……?)



信じたくなくて、違う答えを求めたくて桜久耶に必死に訴える柚葉はとても痛々しく見えた。



「……そうだ。柚葉に会いたいと皇帝様に命を下され、私はここに連れてきた。ただ、園遊会の仕事は本当だ。それに、柚葉を引き渡すために連れてきた訳ではない」