それに加えてあの甘い独特な匂いを出していた。優美の異能、誘惑を使い始めた証拠だ。


柚葉はその匂いに気づきながら、桜久耶の後ろで震えていた。東條家に嫁いでから幸せな時間を過ごすようになった柚葉。


その幸せを感じてしまったが故柚葉は家族が怖くなっていた。


優美は家族の中でも一番逆らえなくて遠い存在だったこともあり、その姿を想像するだけでも鳥肌が立つようになった。



「だから、私の前でそのあまっるい匂いを出すなと言ってる。分からないのか?ここは王宮だ。粗相を犯したらお前もただじゃ済まないだろう?」



桜久耶は以前言ったことあるようなセリフを吐き出しながら脅しにかかっていた。その言葉に優美は一瞬ピクっと眉を動かす。



(旦那様の脅しが効いてる?さすがに優美の気に入ってる人の前では失敗したくないわよね)



誰よりも完璧な美少女でいたい優美は失敗することを恐れていた。そのこともあり、柚葉が嫁ぐ前はキツく失敗だけはするなと言い聞かせられていた。



「それもそうね。こんな所で使う能力ではないわ。東條様も随分皇帝様に気に入られている様子だしね。それじゃあお姉様、また後で」


「あ……優美?」



桜久耶の言葉で一気に異能の力を引かせた優美は。そのまま大人しく引き下がり、柚葉の呼ぶ声にも反応しなかった。



「……旦那様……?ありがとう、ございます」


「ああ、気にするな。まさか皇帝様の前にあいつに会うとは……。柚葉大丈夫か?」



優美が居なくなったのを見計らったあと、柚葉は桜久耶に頭を下げた。桜久耶は柚葉の心配をしている。


不思議な感覚は残ったが柚葉の無事を確認した桜久耶はほっと胸を撫で下ろした。



「……噂には聞いていたが桜久耶が本当に愛妻家になっているとはな。感心したぞ」



桜久耶と柚葉が見つめあっていると突然どこか優しい男の人の声が2人に話しかけていた。


そのことに驚いた2人は同時に顔を上げる。



「……こ、皇帝様!いつの間にいらっしゃってたんですか!」


「皇帝様!?こちらの御方が?」



声の聞こえた方を振り向くなり桜久耶は顔を真っ赤に染めながら皇帝様と叫んだ。柚葉は釣られるようにして驚いた。


皇帝の顔を知らなかった柚葉は思わず二度見してしまう。


まさかこんなにも、優しそうな男性だとは思っていなかったから。