他にも車が止まっていてどうやら柚葉たちよりも先に先客がいるらしい。その中に見覚えのある人もいて柚葉はドキッとした。
「東條様、お待ちしておりました。中へどうぞ」
桜久耶にサポートしてもらいながら柚葉はあとをついていく。桜久耶の顔を見るなり誰もが頭を下げていたことに違和感を覚えた。
(旦那様は普通の縁結び神社の神主として招かれているのよね?それなのに何故みんなそんなに敬意を示しているの?)
不思議な対応にますます不安になる柚葉。
「こっちだ。先に皇帝様に挨拶してしまおう。そうすれば安心するだろう?」
「そ、そうですね!」
周りの人の反応を見ていた柚葉に桜久耶は話しかけた。それに驚きながらも柚葉は反射的に答えた。
どうやら桜久耶はこの対応に疑問は持っていないらしい。
柚葉の中での謎は深まるばかりだった。
「……あら?お姉様じゃないの。なんでお姉様がここにいるのかしら?」
「ゆ、……優美……」
桜久耶と柚葉が皇帝の部屋に向かっていると聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
後ろを振り向くとそこには綺麗に着飾った優美が立っている。
「どうして無能なお姉様が王宮にいるのかしら?しかも東條様と歩いてるだなんて。恥ずかしい。東條様の名前が穢れてしまいますわよ。ねぇ、お姉様?」
周りに誰もいないことをいいことに、優美は言いたい放題。柚葉の隣には桜久耶もいるのだがそんなことはお構い無しだ。
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら近づく優美。いつもより濃く、派手に化粧した顔は迫力満点だ。
「あ……えと……」
怖くて固まっていた柚葉の前にスっと桜久耶が出てきた。柚葉を隠すようにして優美に立ちはだかる。
「失礼。私の妻に何か御用でしょうか?私共は急いでいます」
桜久耶はドスの効いた低い声で冷たく言い放つ。目の前の人物が優美だということに気づいていてこの態度を取っていた。
「あら、東條様じゃないですか。お久しぶりですね。覚えてませんか?私はあさぐも館の花魁……朝雲優美です」
さっきまでの気迫はどこにいったのか。
桜久耶が優美を見るなり、優美は色目を使って近づいてきた。



