そのことを聞かされたのは柚葉がここに嫁いでくる数日前の話。柚葉は自分には関係ないと思い込み、話を聞き流していた。


だけど今、そんな話が桜久耶から出てきて内心焦っていた。



「知っているなら話が早い。代々家の家系は皇帝様から気に入られている縁結びの神社なんだ。そこでご子息様の婚約お披露目会には毎回この神社の神主が縁を願って踊ることになっていた」


「……え?旦那様も、ですか?」



柚葉は話を聞いているうちに優美が行うような内容と同じだと思い始めていた。その話を聞いて思わず聞き返す。



「ああ、そうだ。女の舞は遊郭の最上級の妓女、男の舞は皇帝様のお気に入りの縁結び神社からそれぞれ選ばれる。……それが、今私が皇帝様から話を受け、忙しくしている理由だ」



驚く柚葉にちゃんと話を進める桜久耶。最後まで聞いた柚葉はなんだか妙に納得してしまった。


優美が何故桜久耶との婚約話に執着していたのか。確かに桜久耶はこれでもかと目を疑うほど美しい容姿を持っていた。


遊郭で最上級だと言われている優美が気に入るほどの美しい容姿。しかし、理由は他にもあるだろう。


それはきっと皇帝様のお墨付きのある縁結び神社の神主という名誉があるから。


その神主の花嫁になれば自然とその花嫁も期待され、皇帝様ともいずれ交流することとなる。


それを知っていたから優美は柚葉が桜久耶の花嫁になることは絶対に許さなかった。おそらく今もふたりの婚約を許していないはず。



「そうでしたか。話して下さり、ありがとうございます。……話を聞いている限り、私は王宮に行かなくてもいいのでは……?と思うのですが」



柚葉は桜久耶に頭を下げたあと疑問をぶつけた。確かに柚葉は桜久耶の花嫁だ。だが異能がなく、ただ政略結婚の柚葉が行く理由が見つからない。


優美のように優れた異能を持っていたら話は別だろうが。



「……いや、それが柚葉のことを一目見たいと皇帝様から言われているしまってな……出来れば次の集会に柚葉も来て欲しいのだ」


「え?本気ですか!?」



まさかの皇帝様からのお呼び出しに柚葉は大きな声を出してしまった。



「皇帝様直々の願いだから着いてきて欲しい。おそらく、優美も……挨拶に来るだろうが」


「優美も、ですか……」



桜久耶から柚葉の名前が出てきて、柚葉はドキッとした。園遊会に出るなら優美がいてもおかしくない。


だが、ここに来てから優美と会っていない柚葉は不安で仕方なかった。



「大丈夫だ。私がずっと傍にいるし、何かあれば必ず柚葉を守ってやるから」



柚葉の不安を察した桜久耶はぽん、と優しく頭を撫でた。そのことに安心する柚葉は微笑みながら頷く。



「わかりました。旦那様を信じて……。私、皇帝様にお会い致します」



こうして、柚葉は国の頂点に立つ皇帝と会う約束を桜久耶と共に交わしたのだった。