桜久耶は微笑んだ後。柚葉にそう話して歩き出す。



(少し話もある……?もしかして、昼間朱里さんが言っていたことかしら。本当に今日話をされるなんて)



柚葉は昼間朱里と話していたことを思い出していた。朱里は今日桜久耶から話があるかもしれないと言っていた。


それが本当になり柚葉は驚いた。



「柚葉?何をしてる?早く行くぞ」



その場に立ち止まる柚葉を不思議そうに思いながら首を傾げる桜久耶。柚葉ははっと顔を上げ、小走りで桜久耶の元へと向かった。


***

夕食後。


すっかり日は落ち、星が瞬き始める時間。柚葉は桜久耶と同じ部屋で向かい合わせになるように座っていた。


ここに来た時もなんだか似たようなことあったなと柚葉は緊張を隠すため別の事を考えていた。



「こんな時間に済まないな。ちょっと柚葉に話をしておかないことがあったものだから、ここに来てもらった」


「わ、私は大丈夫です!」



桜久耶は真剣な表情で柚葉を見つめる。その視線に柚葉は耐えきれなくなり思わず目を逸らした。



(旦那様と見つめ合うのは未だになれないわね。なんか緊張してしまう……)


「柚葉。今度私と一緒に帝都にある王宮に行ってくれないか?」


「……は?王宮、ですか……?私が!?」



しばらくの沈黙の後、桜久耶は話を始めた。最初からとんでもない言葉が飛び出て来て、目を丸くする柚葉。


帝都にある王宮といえばこの国の頂点に立つ皇帝様が暮らしていた。その王宮の周りは男子禁制の花園の町がある。


その花園は遊郭の町でも有名な話しで噂では皇帝様の子を産み、育てるための場所でもあるとか。


実際目で確認して戻ってきた者はいないので噂だが。柚葉は優美が話ているのを何度か聞いた事あるので帝都の事情を少しは知っていた。


だがしかし、なぜ桜久耶がその帝都と関わりがあるのかはさっぱり分からなかった。



「そうだ。近々、皇帝様のご子息の成人と婚約のお披露目する園遊会が開かれるのは知っているだろう?」


「は、はい。それは知っています」



今の皇帝様の息子様……すなわちご子息様は婚約できる年齢になった。そこで婚約の相手を見極めた儀式を行い、無事に決まったらしい。


そのお披露目をする園遊会を開くという話は知っていた。何せその園遊会では優美が演目のひとつである『舞』を踊ることが決まっていたから。