主に優美の身の回りのことを任されていた。時々呼ばれてはわざとお客様の前で身なりを整えたり、何も用事がないのに隣に座らされたり。


とにかく優美の邪魔をしない程度に“引き立て役”の仕事もこなしていた。



「いや〜。ほんとに優美ちゃんは美人でかわいいね〜。ここに来ると本当に癒されるよ」



優美の着物を整えていると1人のお客様に声をかけられた。そのお客様はかなり裕福な家でお金持ち。


どんな仕事をしているのか分からないがほとんど毎日来るような懐の深いお客様で常連客でもあった。



「ほんとですか?ありがとうございます♡」



優美はにっこり笑顔で対応した。


柚葉は会話を聞き流しながら黙々と作業を進めた。思った以上に着物が緩んでおり、帯を直すのに苦労する。



「本当にそこのお姉さんと血が繋がってるの?姉妹なのに全然顔似てないよね」



ードキッ。


突然、自分のことを話されて心臓が跳ね上がる。こういう話は何度もされてるのにまだ心臓が反応してしまうのは何故だろう。


優美との容姿の違いはどう頑張っても埋まることはないのに。



「一応姉ですよ〜。まぁ、この不細工は異能もないし、なんにもできないですけどね」



私のことを見下ろしながらケラケラとたか笑する優美。その言葉ひとつひとつが胸に突き刺さって来る。



「……終わりました」


「そう。ならもう用事はないわ。引っ込んでなさい」


「かしこまりました」



ひとしきり優美の笑い声を聞いた後、ようやく着物を直し終えた。慣れたはずなのにこういう話を聞くとまだ心が痛む。


居心地が悪くなった柚葉は優美に言われた通り部屋の隅にいようと思ったけど。


その時ばかりは苦しくて苦しくてどうしようもなかった。


そっと、この部屋から抜け出した。



「……はぁ。私、何をやってるのかしら」



誰にも見つからないようにやってきたこの場所は噴水広場と言われる場所だった。


今の時代、珍しい洋風の作りの外観に合う庭が欲しいと母親が言い出し、この噴水広場ができたそう。


常に新しいものを入れたがる母親と優美はこの噴水広場を喜んだ。ただ、夜は忙しいためあまり人は寄ってこない。


たまに柚葉が1人になりたい時、ここに来ることがある。この噴水広場は柚葉のお気に入りの場所。


今は……誰にも見つかりたくない。そう柚葉は思っていた。



(何度みても自分の顔は優美に勝てっこないって思ってしまうわね。あの子は本当に自分の妹かしら?)