東條家に嫁いでから数日後。
柚葉はすっかり桜久耶に愛される生活を送っていた。最初の印象からは想像もできないほどの甘い桜久耶。
こんな幸せで贅沢な生活を柚葉は最初、戸惑っていた。
それもそのはず。
今まで家族という存在に使用人として扱われ、柚葉は愛された経験がないからだ。
桜久耶が愛妻家になったという事は東條家のみんなにあっという間に知れ渡った。
「柚葉様、最近笑顔が増えましたね」
「え?そ、そうでしょうか?」
部屋で朱里とふたりで過ごしているとふとそんなことを言われた。柚葉はどう返していいか分からず、たどたどしくなってしまった。
(そんなこと言われたの初めてだわ。笑顔が増えたなんて……。だとしたら、これは旦那様のおかげね)
「そうですよ。来た時よりも柚葉様はとても美しくなられましたし、何より幸せそうです。私も……柚葉様と桜久耶様の幸せそうな姿を見ることができて嬉しいです」
ニコッと微笑む朱里はとても可愛らしかった。柚葉は戸惑いながらもそう言われたことに嬉しさを感じた。
「あの……旦那様はいったいどんなお仕事をなさっているんですか?私まだ何も旦那様のことを知らなくて……」
柚葉は思い切って聞いてみた。桜久耶とは初めての夜を共にした時にしか家のことを話してくれなかった。
後日話すと約束したが仕事が忙しいのかすれ違いが多くなり、家のことを知る機会はなくなっていた。
朱里なら東條家のことをよく知ってるし教えてくれるかもしれない。そう思った柚葉は朱里を部屋に呼び、尋ねる瞬間を伺っていたのだ。
「そうですか……。桜久耶様はまだ何も話されてないのですね。だとしたら、私から話すことはまだできません」
「え……?それって、どういう……」
柚葉の朱里への期待はあっさりと砕け散った。少しだけでも聞きたいと思っていたのに朱里は何も話すことはせずはっきりと断る。
そのことに柚葉はショックを受けた。
「大丈夫ですよ。今桜久耶様が忙しいのは国から重要な仕事を依頼されたからです。近いうちに柚葉様にも話はされるかと。それに、この重要な仕事は柚葉様も関係していることなので」
ショックを受ける柚葉に気づいた朱里はそう説明した。あまりにも真剣な表情に柚葉は何も言えなくなった。
(重要な仕事?私に関係すること?それっていったいどういうことかしら?)



