顔を真っ赤にしながら柚葉はじりじりと後ずさる。そんな姿を見ながら桜久耶ははぁとため息を着いた。



(きっと旦那様はめんどくさい女だと思ったわね。こんなに恥ずかしがるなんて。優美ならきっと堂々と……)



「柚葉、そっち行くぞ」


「ひゃっ!だ、旦那様!?」



色々考え過ぎてネガティブになっていた柚葉に近づく桜久耶。


その行動に驚いて声を上げる柚葉だったがあっという間に逃げられなくなった。


桜久耶が柚葉を強く優しく抱きしめていたから。桜久耶の腕の中にすっぽりと収まる柚葉は思わず固まった。



「旦那様……?」


「すまないな。ここにきてまだ初日だというのにこんなに緊張させてしまって。もっと朝雲家に顔を出してから婚約を成立させたかったのだが……。早く、柚葉をあの家から助け出したかった」



抱きしめられながら桜久耶の言葉を聞く柚葉の目にはいつの間にか涙が溜まっていた。


何度も何度も桜久耶からの婚約の話を断った柚葉だったがそれでもそんな優しいことを思っていた。


それを知った柚葉は反射的に桜久耶を抱きしめ返す。



(私、本当は旦那様に助けを求めていたのかもしれない。優美とお母様に言われていたから、自分の欲を見失ってた……。でもあの家から逃げ出して良かったのね)



物心ついた時から無能だの引き立て役だの散々な悪口を言われ、自分の生きる希望を失っていた。


そんな柚葉に手を差し伸べ救ってくれた桜久耶の言葉はどれだけ柚葉の胸に響いたのか。



「ありがとう。私との婚約を決めてくれて。私は一生柚葉を大切にする。だから、今は急がない。今日はゆっくり休め」



ぽんぽんと背中を優しく撫で、落ち着かせるような口調で話をする桜久耶。



「こちらこそ、ありがとうございます。私を見つけてくれて、私は幸せです。旦那様、私も旦那様を大切にします」



止まらない涙を拭いながら桜久耶と柚葉を視線を合わせた。


……その時。


柚葉は左手の薬指に違和感を覚えた。まるでこの前見た夢のような違和感。



「……あ、れ?赤い糸……?」



柚葉はそっと左手を見た。すると左手の薬指にはあの夢で見た真っ赤な赤い糸が絡まっていた。


その後を辿っていくと……終わりには桜久耶の左手の薬指に同じ糸が絡まっている。



「……しまった。異能の力が出てしまった」