目が合った朱里に背中を押され、柚葉は意を決して桜久耶の元へと向かった。ドキドキしながら柚葉は襖を開ける。
「お、お待たせ致しました……」
「全然待ってないぞ……。って、柚葉、その格好どうした?」
恥ずかしそうに柚葉は頭を下げた。そんな柚葉を見た桜久耶は息を呑み、驚いていた。
2人の間に気まずい空気が流れるが嫌な気持ちにはならない。
「西園寺さん達にやってもらいました。私にはもったいないくらいですが……。着物も貸していただいて」
ぽつりぽつりと桜久耶と別れてからの出来事を柚葉は洗いざらい話した。いつの間にか柚葉は綺麗な桜柄の着物を身につけていた。
来た時には少し古めの着物を着ていたのだが朱里がそれでは駄目だと新しい着物を引っ張り出してきたのだ。
「よく、似合っているぞ。柚葉……綺麗だ」
桜久耶は咳払いしながら柚葉を褒めた。
(こんな格好……似合わないのはわかってるけど。東條様に恥をかかせる訳にもいかないわよね)
桜久耶が照れていることを誤魔化そうとしていたが柚葉はそれに全く気づかず別の事を考えていた。
「ありがとうございます。東條様の隣を堂々と歩けるように努力しますので」
「何を言ってるんだ。柚葉はもう私の妻だ。既に堂々と歩いていいんだぞ。ほら、こっちに来なさい」
「と、東條様!?」
柚葉の言葉にピクっと反応する桜久耶。すると少し強引に柚葉の手を取り強く優しく握りしめた。
大きな手が柚葉の小さな手を包み込む。
「その東條様っていう呼び名も気に入らんな。名前で呼んでくれないか?柚葉」
顔を近づけながら、柚葉に迫る桜久耶。
あまりの近さに顔から火が出そうなほど熱くなる柚葉は。
「あの……えっと……さ、くや……様」
「様はいらん。名前だけでいい」
「む、無理です!せめて旦那様って呼んでもいいですか?」
男の人を名前で呼んだ経験がない柚葉にとって、いきなりの名前呼びはハードルが高かった。
たくさんのことが一度に起こりすぎてパンクしそうな柚葉。
「……まぁ、今はそれでいい。東條様よりはマシだな」
柚葉の提案に渋々だが納得した桜久耶。
そのことに柚葉はほっと胸を撫で下ろす。
(この短時間で色んなことが起こりすぎよ……。なんだか着いていくのに精一杯ね)



