ーー運命の赤い糸。
それは生まれた時に運命られるもの。一生を添い遂げる相手を見つけるためのちょっとした神様の悪戯。
それが今。
私の目の前にいる人だなんて。
***
婚約した日の夜。
柚葉は東條家に来て初めての夜を迎えようとしていた。
朝からここに来るまで色々大変だったが世の中の夫婦はこの“初夜”という物を大事にしていた。
夕方、あれよこれよと柚葉は朱里に身なりを整えさせられ、疲れたと言わんばかりの表情をしていた。
だけど。
身なりを整えた柚葉はまるで別人と思わざるを得ないほど美人に仕上がっていた。
「柚葉様。とてもお綺麗ですよ。さすが桜久耶様に見初められた花嫁様ですね」
朱里はそう話しながら柚葉に手鏡を渡す。
無事に最後まで綺麗に整えあげた朱里は満足そうに頷く。そしてそれは周りにいた使用人も同じだった。
「……え?これが、私……?」
朱里から手鏡を受け取った柚葉が目を開けると。そこには自分ではないような自分がいて。
思わず二度見してしまう。
「はい。柚葉様はいくら痩せているとはいえ、元が美しいですから、特にお顔には手を加えていません。少しお化粧をしたくらいです」
鏡の中に写っていた柚葉は。
優美に負けず劣らずの大人っぽい綺麗めな美人になっていた。
白粉で少し白くなった顔の上に赤い口紅がよく映えていた。そして瞼には影を入れる程度の色が乗っている。
「お似合いです♡」
「とてもお綺麗ですよ!」
ぼんやりと鏡を見つめていると次々と柚葉を褒める声が聞こえた。
褒められなれていない柚葉は頬を赤くするばかり。
「そ、そんな……私なんて……。でも、ありがとうございます。こんなふうに素敵に仕上げてくださって」
人生の中でお化粧を一度もしたことがなかった柚葉。
いつも優美にして上げることしかなかったのでこんなふうに自分にすることはなかった。
お化粧をすることを柚葉は禁止されていたのだ。
「ーー柚葉。そろそろ夕飯の時間なんだが……準備は整ったか?」
しばらくすると部屋の外から桜久耶の呼ぶ声が聞こえた。
ハッとして顔を上げると朱里と目が合う柚葉。
「桜久耶様はきっと柚葉様に惚れ直しますね。私たちも後で行きますので自信を持って行ってらっしゃいませ」



