朱里は腰まで伸びた長い髪の毛をひとつにまとめ、丁寧に結い上げていた。優しそうな顔立ちに柚葉の心はどこかほっこりと暖かくなる。



「よ、よろしくお願いします。朝雲柚葉です」



戸惑いながらも柚葉は朱里に挨拶する。


柚葉と朱里の視線が合い、なんだか気恥ずかしくなってお互いにそらす。



「桜久耶様の花嫁様のお世話係になれるなんて光栄です。少しづつでいいのでどうか私と仲良くしてください」



柚葉はこの出会いにドキドキしながらも頷いた。こんなくすぐったい気持ちになるのは生まれて初めてだった。


歳の近い女の子といったら朝雲家にはたくさんいたけど柚葉は全然相手にされない。


優美は顔を合わせれば嫌味ばかり。


こんな穏やかな時間を過ごすのも初めて。




「ありがとうございます。あの……私はこれからいったい何をすれば……」



このまま突っ立っているにもいかない柚葉は恐る恐る尋ねた。



(荷物を片付けるまではわかるけど……そこからどう生活していいか分からないのよね……)



桜久耶には自由にしていいと言われたけど。やっぱり柚葉の中ではまだ分からないことだらけで。


せっかくだから朱里に聞いてみようと思った。



「そうですね……。それではまず身なりを整えますか。今日は桜久耶様と柚葉様の初めての夜を迎えます。とびきり可愛くしなくてはいけませんからね!」


「えっ……あ、あの……西園寺さん?」



柚葉の問ににこりと笑いながら答えた朱里。それを聞いた柚葉の頬は段々と引きつっていった。



(は、初めての夜って……!西園寺さん、何を言ってるの!?)



朱里のとんでもない発言に言葉を失う柚葉。どうしたらいいか分からなくて後ずさる。


朱里は楽しそうにしながら色々と話しているけど緊張しすぎていた柚葉には全然届いていなかった。



「それでは柚葉様。桜久耶様のために美しくなってもらいます。お覚悟を」


「いや、あの……西園寺さんーー!?」



ニヤニヤが止まらない朱里とそれを避けられなかった柚葉。静かな悲鳴がこの部屋に響き渡る。


いつの間にかこの部屋には朱里以外の女性の使用人も来ていてたくさんの着物やらお化粧道具やらを持ってきていた。


逃げられないと悟った柚葉は朱里達にされるがまま部屋の奥に連れられ、“お洒落”という名の地獄を味わうことになったのだった。