太陽はすっかり沈み込んだ夜。
外は暗いというのに遊郭の街は賑やかで眠りに落ちることを知らなかった。
「優美ちゃん〜!こっちもお酒ちょうだい」
「こっちも相手してくれよ!」
夜になるにつれ、賑やかさが増していくあさぐも館。その中でも優美は一際忙しく回っていた。
先程とは打って変わって晴れやかな笑顔を振りまいている。優美はお客様達にお酒を着いだり、余興で踊りを見せたりと楽しんでいた。
一方の柚葉はというとよれよれの薄汚い着物を身にまとい、優美の姿を部屋の隅からぼんやりと見つめていた。
他の妓女たちもそれなりに忙しそうなのに自分には誰も寄ってこない。一応妓女という扱いだったが、柚葉を“女”として見るものは誰もいなかった。
***
私ーー朝雲柚葉の家系は遊郭の街では有名な館を営んでいた。異能にも恵まれ、それを活かして私たち家族は商売をしている。
『あさぐも館』と聞けば誰もが知っている妓楼だ。たくさんの妓女がいて、美しい女性で溢れている。
その中でも一際目立ち、人気者なのが優美だった。優美は『誘惑』『カリスマ性』という異能を引き継ぎ、次から次へとお客様を連れ込んで魅了する。
この街で一番の美女は優美だと誰もが口を揃えて話すことだろう。しかし、その姉の柚葉はパッとしない印象だった。
異能は受け継がず、オマケに鈍臭い。
この館を営む家族にとっては柚葉はいらない存在で迷惑でしか無かった。そして気づいたら柚葉は優美の引き立て役として妓女になり、散々な扱いを受けていた。
姉より妹を大事にする両親。
姉を姉と思わない妹。
そんな環境の中で柚葉はもう少しで18歳の誕生日を迎えようとしていた。
18歳となれば妓女なら身請け話のひとつやふたつあるはずなのだがそんな話は全然ない。柚葉の異能が開花することなく、誰にも愛されず迎える18歳の誕生日。
(別にこのままでもいいんだけどね)
自分の幸せを望むことを諦めていた柚葉。この先の未来のことをなるべく考えないようにして日々を過ごしていたのだった。
***
「お姉様!何をぼんやりしているの?早く私の着物を整えてちょうだい!」
部屋の隅でぼんやりしていると優美に呼ばれ、はっと顔を上げる。柚葉は言われるがままに優美の傍に行き、着物を整えた。
こんな感じで柚葉は夜の仕事を手伝うことが多い。



