柚葉は重たい気持ちと頭を抱えながらそのまま部屋に取り残された。



(……私は生きていてもしょうがない。この縁談は断ろう)



無意識に、そんなことを思っていた。


***


一方、その頃柚葉の部屋を出ていった優美はというと。



「……これ、本当に効くのね。あの“世話係”から買って正解だわ。まさか協力してくれるなんてね。……私を置いて幸せになるなんて許せないんだから」



あるものを握りしめながら興奮が止まらない優美。その手にはひとつの幻の道具があった。


それは異能家系の中で密かに流行っている闇の道具。どこからかそれを仕入れた優美はやりたい放題。


本物だと確信した優美は、そっとほくそ笑んだ。


***


桜久耶と柚葉のデートから数日後。


再び朝雲一家はひとつの部屋に集められた。



「今日も大事な話がある」



しん、と静まり返った部屋に響くのは父親の声。その姿を見ながら優美は何故かご機嫌で話を聞いていた。


母親はというとそんな優美の姿を見て不思議そうに首を傾げていた。



「……落ち着いて聞いてくれ。朝雲家と東條家の政略結婚が正式に決まった」



その一言にぱあっと表情を明るくさせる優美。柚葉は部屋の隅で驚いた表情をした。



「本当に?ねぇ、お父様。桜久耶様と婚約するのは私よね?私よね!?」


「……落ち着いて聞けと言っただろう」



興奮止まらぬ優美は今か今かとその報告を待っていた。



(きっと私じゃないわよね。先日二回目のお断りの文を送ったもの)



柚葉はこっそりと桜久耶へ縁談お断りの文を出していた。一回目は桜久耶から返事が来てもう少し考えて欲しいとあった。


だけどそれを柚葉は断る。


二回目の文を先日送ったばかりでまだ返事は来ていない。



「東條桜久耶と婚約し、嫁ぐのは……柚葉だ」



そんな柚葉の気持ちを遮るようにして父親は容赦なく婚約の相手は柚葉だと話した。


その言葉を聞いて一瞬でこの場の空気が凍った。優美は息を呑み、柚葉を思い切り睨む。



「いいか?東條家は由緒正しい神社の家系。それも人との縁を結ぶ神様が祀られている神社だ。東條桜久耶は柚葉を“運命の人”だと言った」



いつも厳しい父親が有り得ないことを話していく。そのことにも驚いたが柚葉はその中でも“運命の人”という言葉に反応した。