よく分からない感情が頭の中を駆け巡り、涙で顔が濡れているのがわかった。


柚葉は動かない身体で涙を流すばかり。


桜久耶は優しく柚葉を見守っている。


やがて左手の小指に巻き付かれていた赤い糸はすぅっと消えていく。それと同時に桜久耶も消えていった。



(……だめ、……いか、ないで……)



手を伸ばそうとするもそれすらもできない。柚葉の願いは叶うことは無く、いつの間にか意識を手放していた。



「……んっ、……ゆ、め……?」



次に意識を取り戻したのは現実だった。すぐに意識を取り戻した柚葉はゆっくりと身体を起こす。


あの夢はいったいなんだったのだろうか。


先程桜久耶に会ってきたばかりなのにこんな夢に出るなんて。



「あら、お姉様お目覚め?不細工な眠り姫が起きたわ」



夢を思い出しているといつの間にか優美が部屋の襖から顔を出してニヤニヤと笑っている。


久しぶりに上機嫌の優美を見て柚葉はほっとしたけどどこか怖くて。


思わず目を逸らした。



「東條様とのデートはどうだったかしら?さぞかし東條様は不愉快な思いをしたのでしょうね。こんな“不細工”と街を歩くなんて考えただけでぞっとするわ」



柚葉を見ながら嫌味たっぷりに話す優美。その姿は相変わらず悪魔のようで。柚葉への悪口は止まらなかった。



「……え、っと……ゆ、ゆうみ……?」


「うるさいわね!その声で私の名前を呼ばないでちょうだい!だいたいなんで東條様は私よりもお姉様を選ぶの!この街一番の美女は私よ!?私を選ぶべきなの!本っ当にあんたが憎くてしょうがないわ!」



一気にまくし立てる優美はいい終わった後、はぁはぁと息切れしていた。突然のことで柚葉は何も言い返すことができない。


……いや、元々言い返す勇気はなかった。


いつもは言葉を濁しながら嫌味を言うのだが今日は違った。優美は柚葉に向かってはっきりと“憎い”と言ったのだ。


その言葉が柚葉の胸の奥に突き刺さり、桜久耶とのデートで得た“幸せな気持ち”はすっかりと消え去っていた。



「……申し訳ございません……」



優美の迫力に負け、頭を下げる柚葉。


桜久耶への気持ち、思い出を捨てるように柚葉は頭を下げる。



「ふんっ。あんたは一生私の下で働いていればいいのよ」



それを見た優美は満足したのか鼻で笑うと部屋を出ていった。