そんな柚葉を見て桜久耶は満足そうに微笑む。



「そうか。柚葉が幸せそうに笑ってるとこを見て私も幸せだ」


「……幸せ、ですか?」



桜久耶の言葉に思わず固まる柚葉。幸せという言葉を聞いて勝手に自己嫌悪に陥ってしまう。



(そういえば、私は一回東條様の縁談話を断ったのよね。それなのにこんな私とデートして……。私ばっかり楽しい気持ちになって。本当にこれで良かったのだろうか)



プリンをぼんやりと食べながら柚葉は考えた。今日のデートが楽しすぎて自分の家のことをすっかり忘れていたのだ。


こんな姿、優美が見ていたら一体何をされるのか分からない。


柚葉だけこんな幸せな時間を過ごして……と考え方が全てマイナスな方向にいってしまう柚葉。



「幸せだ。言っただろう?私はもう柚葉を愛してしまった。愛する人の幸せな笑顔を見て幸せにならないわけないだろう?」



しれっと恥ずかしいことを言ってのける桜久耶。その言葉に柚葉は思わず目を見開いた。



(この方は、本当に私のことを愛しているの?でも、なんで……。この前まで東條様とはなんの接点もなかったのよ?)



嬉しいと思う反面、柚葉の頭の中は疑問で溢れかえっていた。


楽しいはずなのに気づいたら色々なことを考えてしまった柚葉。そのあとも他愛のない話をしながら、食べ進めた。


***


「……すみません、ごちそうさまでした。お金……いつか返します」


「いいですよ。私が誘ったのだから、気にしなくて大丈夫」



お会計の時、柚葉の分まで桜久耶が払ってくれた。そのことに申し訳なく謝る柚葉。



「すみません……」


「もうこの話は終わりしよう。……今日はこの辺で終わりにするか。色々あって疲れただろう?」



いつまでも頭を下げる柚葉を遮って話を変える桜久耶。気づいたら空は夕焼け色に染まっていた。



「そうですね。そうしましょう。今日は本当にありがとうございました」



やっと謝ることをやめた柚葉。


それを見て桜久耶はぽんぽん、と柚葉の頭を撫でる。



「こちらこそありがとう。またあさぐも館に話をしに行くよ。それまで……どうしたいか答えを決めておいてくれ」


「……はい。わかりました」



桜久耶の行動に顔を真っ赤に染めながら頷く柚葉。夕日に照らされ、桜久耶の髪色はキラキラと輝いている。


柚葉はたくさん聞きたいことがあったはずなのに。何も聞くことはせず、デートに終止符を打った。


この楽しい気持ち、幸せな気持ちは今日でおわり。


そんなことを思いながら。



(東條様。貴方の傍にいられたらどれだけ幸せなのだろうか。でも……私はそれを望んではいけないのよ)



この気持ちに蓋をしようと柚葉は一生懸命に今日の出来事を忘れようとしていた。