桜久耶は柚葉を見ながらお店の方に引っ張っていく。普段大人な雰囲気の桜久耶だったがこの時ばかりははしゃいでいた。
桜久耶の強引さに驚きつつも柚葉は楽しくなってクスッと笑う。
「いらっしゃいませ〜」
店員の声を聴きながらお店の中に入る桜久耶と柚葉。中には色々な可愛らしい小物が揃っていて柚葉は目を輝かせた。
どれもこれも美しい物ばかりで目移りしてしまう。
「なかなかいい物が揃っているな。女物はよく分からないがこれとか柚葉に似合いそうだ」
「そ、そうでしょうか……。こういうお店に入ったの初めてで私もよく分かりません。ですけど……どれも可愛いです」
2人の間に穏やかな時間が流れた。
櫛や髪飾りなど色々手に取って話しながら中を見て回った。その時ばかりは柚葉は女の子になっていて。
自分が“みすぼらしい妓女”だということを忘れていた。
(東條様はこんなふうに笑うのね。いつもの雰囲気から全然想像つかないわ)
「……ん?どうかしたか?」
「い、いえ!なんでもないです!」
あまりにも柔らかい表情をする桜久耶を見つめていた柚葉。それに気づいた桜久耶はわざとらしく首を傾げた。
それに顔を真っ赤にしながら首を振る柚葉。
「そうか?柚葉、何か気になるものがあれば遠慮なく言っていいからな」
柚葉の反応を見て優しく微笑む桜久耶。柚葉の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「と、東條様……?」
「……あ、悪い。柚葉が可愛くてつい……」
自然な仕草に思わず柚葉は固まる。
桜久耶は照れながら、顔を逸らした。
「と、とりあえず次の店に移るか」
「そうですね……」
柚葉は自分の身に何が起こったのか理解するのに時間がかかった。男性から頭を撫でられるなんて初めてで。
ドキドキと心臓がうるさく鳴った。
(こんな気持ち……初めてよ)
この甘い気持ちに戸惑う柚葉だがたしかに小さな幸せを感じていた。それは柚葉は感じてはいけないと思っていた気持ち。
こんな気持ち……知らない方が良かったと柚葉は思ってしまった。
「……柚葉。ちょっとそこで休憩しないか?」
「……はい。そうしましょうか」
しばらく商店街を歩いたが気まずい雰囲気のまま。桜久耶は近くにあった甘味処での休憩を提案し、柚葉はそれを受け入れた。



