首を傾げながら、柚葉は思わずじっと桜久耶のことを見てしまっていた。



「それより、今日は突然のデート申し込みにも関わらず対応してくれたことに感謝する。私はどうしても柚葉を諦めきれなかった」



咳払いしながら桜久耶は話し出す。


道行く人に見られても気にすることなく話す桜久耶だが、柚葉は顔を真っ赤にさせていた。


男の人と2人きりになるなんて生まれて初めての柚葉。この状況をまだ頭の中で整理しきれていなかった。



「だから今は縁談とかそういうのは置いといてまずは私との時間を過ごして欲しい。これではダメだろうか?」


(……うっ。その聞き方はずるいわ。断ることなんてできないじゃない。帰ったらどんなことが待っているのか怖い。でも……)


「わかりました。ふつつか者ですがよろしくお願いいたします」



柚葉は桜久耶の真剣な眼差しに負けてしまった。


後で家族からの仕打ちが待っているとしても桜久耶の気持ちは本物だと柚葉は確信してしまったのだ。


この方となら、心を許せてしまうかもしれない。そんなことをふと柚葉は思う。



「こちらこそよろしくお願いします。それじゃあ、早速行こうか」


「はい!」



お互いに挨拶を済ませたあと。


柚葉と桜久耶のデートが始まったのだった。



「相変わらず帝都の商店街は賑わっているな。何か気になる店はあるか?」


「気、気になるお店……ですか?」



柚葉は突然話を振られて戸惑ってしまった。何せここに来たのは十数年ぶりだから。


自分が妓女として働き始める前から家族から屋敷内の敷地から出ることを禁じられていた柚葉。


仕事以外遊びに来たことはなかった。


そんな中で気になるお店と言われても……とキョロキョロと辺りを見渡してしまう。



「最近は洋風の物が流行っているな。ほら、そこの髪飾り屋とか着物屋とかも変わっているだろう?」



どう答えようか迷っていたら桜久耶が人気の店を見ながら話し出す。


そこには見たこともない可愛らしい髪飾りや櫛、着物が並んでいた。


同年代の女の子たちはきゃあきゃあと楽しそうに話しながら買い物をしている。その様子を見ながら、じっとお店を覗き込む。



「あそこが気になるか?」


「あっ、いえ、別に気になるとかじゃ……東條様!?」


「柚葉の気になる店だ。少しくらい寄り道して行かないか?」