いつもならなにも言わない母親が優美のことを止めた。そのことに柚葉も優美も驚く。



「お母様、どうして止めるの。お姉様の事はどうなってもいいんじゃなかったの?」


「そうよ。今もそう思ってるわ。だけどね。ここでお仕置するより、もっと楽しい時にした方がいいと思わない?」


「何それ。お母様ったら、一体何を企んでいるの?」



母親は優美にコソッと耳打ちした。柚葉には聞こえない声で2人は楽しそうに話し込む。



(……なんで東條様は私とデートしたいと思ったのだろうか。この前お会いした時も私の顔を見たはず。それなのに……)



柚葉はふたりの声を聞き流しながらふと桜久耶のことを考えた。あんなに素敵な方がなぜ柚葉のことを選んだのか分からない。


“愛すると誓おう”と言われたが柚葉は咄嗟にその手を取れなかった。それはきっとまだ桜久耶のことを信じきれていないから。


柚葉の心がまだ弱かったから。



「とりあえず今日はこのままでいいわ。東條様とのデート、楽しみね。お姉様?」



どうやら話は終わったようだ。優美はニヤリとほくそ笑みながら柚葉を見た。


その笑顔にゾッとしながら、柚葉は唇を噛み、ぎゅっと拳を握りしめたのだった。


***


桜久耶とのデート当日。


待ち合わせ場所は帝都にある商店街の入り口。手紙にはデートの内容と場所、時間、軽く挨拶みたいなのが書かれていた。


久しぶりに昼間から帝都にいることに落ち着かない柚葉。



(この着物で大丈夫かしら。優美のお下がりを借りてるのだけど……)



いつもの着物じゃさすがに釣り合わないからと優美が昔きていた着物を押し付けられた。


真っ赤な色合いに派手な花柄の着物。


いかにも優美が好きそうな柄。柚葉には到底似合わないような着物だった。


だけどそれしか余所行きの着物がないため着てみたはいいものの。明らかに柚葉は帝都内で浮いているように見えた。



「待たせたな。柚葉の方が早かったか」


「きゃっ!と、東條様……。こんにちは」



着物を見ながらため息を付いていた柚葉に声がかかった。驚いた柚葉は小さく飛び跳ねる。



「そんなに驚かなくても。柚葉の反応は可愛いな」


「……え?」



慌てて頭を下げた柚葉だが、次に言われた言葉に思わず顔を上げる。



(……今、可愛いって言った?いや、気のせいかしら?)